夜十一時
リビングで明日必要な仕事の準備をしていると佳歩が顔を出す。
「ママ……」
佳歩は私の元に歩み寄ってきて私は席を立ち、身を屈めた。
「どうしたの?」
「……眠れない」
佳歩は不安げに口走る。
この所佳歩は眠れずにこうして私のいるリビングに度々やって来る。
下の詩乃はそんな事ないのだが……
比べても仕方ないので、私は佳歩に言った。
「絵本読んであげようか?」
私が訊ねると佳歩は首を縦に振る。
佳歩と共に寝室に行くと、私は佳歩の隣に横たわり絵本を読み始めた。
佳歩は私と一緒に過ごすと落ち着くという。
前は一人で眠れたが佳歩の友達である弥琴ちゃんが交通事故で亡くなったショックからかすんなりと眠ることができないでいる。
幼稚園でもあまり元気がなく、外で遊ぶことが少なくなったという。
このままの状態が続くのは流石に心配だ。病院に相談した方が良いのかもしれない。
三冊ほどの絵本を読むと、佳歩は眠りについた。
これで一安心だ。
「おやすみ、佳歩」
私は小声で娘の名を呼ぶ。
寝ている詩乃と昇さんを起こさないためだ。
私はそっと寝室を抜け出し、リビングに戻った。

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