むかしむかし、あるところに小さなもみの木がありました。
もみの木は自分の上を小ぐまが飛びこえるのを見て言いました。
「ああ……いやだな、早く大きくなりたいよ」
もみの木は自分より大なもみの木を見て言いました。
お日さまはもみの木に言いました。
「そんなにあせらなくても大きくなるよ、今の時間をだいじにするんだよ」
お日さまの言ってることを、もみの木にはりかいできませんでした。
クリスマスが近くのなると、若いもみの木が次々に切りたおされました。
ぎもんに思い、もみの木は通りかかったつばめに聞きました。
「ねえつばめさん、あの木たちはどこに行くんだい?」
「あの木はね、クリスマス・ツリーになるんだよ、キラキラしたかざりにいろどられてそれはきれいになるのさ」
「ふうん、ぼくも早くクリスマス・ツリーになりたいな」
もみの木は言いました。
もみの木にお日さまは言いました。
「森の中でおまえは若い時を楽しむといいよ」
時間はあっという間に経ち、もみの木は大きく立派になりました。
クリスマスの近くなったある日、きこりがもみの木を見て言いました。
「おお、これは立派なもみの木だ。これなら素晴らしいクリスマス・ツリーになるぞ」
木こりはもみの木を切り、町に運ばれ、ある家に売られました。
高級な家具に囲まれた広間にもみの木は置かれました。
「さあ、ツリーをきれいにかざろう」
子どもたちのはしゃぐ声と共に、もみの木はどきどきしました。
もみの木はサンタクロースの人形、リボン、星などをつけられ自分がきれいになるのを感じました。
「メリー・クリスマス!」
子どもたちは歌をうたったり、ゲームをしたりして遊びました。
子どもたちはプレゼントを開けました。
「わあっ、これ欲しかったんだ!」
「ありがとう!」
もみの木はしあせな気分でした。
きれいにかざってもらえた上に、楽しいクリスマスを味わえたのですから。
もみの木がしあわせだと感じたのはこの日だけでした。クリスマスが終わった次の日、かざりを外されもみの木は物置小屋に置かれました。
「寒いな」
もみの木は言いました。
寒さに震えていると、そこにいたフランス人形が声をかけてきました。
「こんにちわもみの木さん、昨日クリスマスだったんでしょう? お話を聞かせてほしいわ」
もみの木は少し元気が出ました。
クリスマスのことや自分が育った森のことを話しました。
「それで?」
フランス人形は熱心に話を聞きました。
しかし時間が経つとあきてきたようで。
「もっと別の話がいいわ、他にないの?」
「ごめん、他のことはよく分からないんだ」
「あら、そう」
フランス人形はそっけなく言うと、しゃべらなくなりました。
もみの木はまたひとりぼっちになりました。
「お日さまが若い時を大事にしろと言ってたことは、こういうことだったんだな」
もみの木は深くため息をつきました。
もみの木は森での生活がなつかしくなりました。
クリスマス・ツリーになれるのは一時的で、時期を過ぎれば寒い場所に置かれるからです。
鳥のさえずりや、他の仲間が一緒にいたことなど、ここにとじこめられる今より良く思えました。

もみの木は失って初めて大切な物に気づきました。

戻る

inserted by FC2 system