狭く、かび臭い洞窟。
二人の男女の前には、眩い純白の光が輝いている。
「準備は整ったわ、あとは貴方が入って魔法をかければ完了よ」
ルダは桃色の双眸をライに向ける。その瞳は悲痛さを秘めていた。
肩まで伸びた紫色の髪は縛っていて、白衣を身に纏っている。
ルダの隣にいたライは、女を見る。
「……そんな悲しい目で見ないで、貴方は未来を救うために必要な人物なのだから」
「君も一緒にはなれないのか?」
ライはルダの両肩を掴み、疑問をぶつけた。
ライの蒼い瞳は、寂しさで震えている。
二人の男女は長い間付き合ってきた恋人同士で、結婚も誓い合っていた。
しかし、二人の幸せを引き裂くように現実は暗い方向に変化した。世界の至る所では戦争が起き、多くの人間が犠牲になっている。
止まる気配が無く、むしろどんどん悪化している。
このまま戦争が続けば、遠い未来に世界を滅ぼす兵器が生み出される。その兵器を破壊する力をライには備わっているのだ。
ライは時間を止める魔法呪文に入り、長い眠りにつく。
未来を救うために。
ルダは首を横に振る。
「私にはやるべきことがあるから、あなたが目を覚ました時に、少しでも戦いが楽になるように」
「……」
ライは下に目線を移し、黙り込む。
自分が眠りから覚めた時に、ルダはこの世にいないのだ。
戦争など起きなければ、ルダと一緒に幸せな未来を築いていったに違いない。
戦争が憎かった。無意味に殺し合い住む家を失い、一つも得することなど無いのに。なぜ人々は戦争を起こすのだろう。
恋人と引き裂かれるライも戦争の被害者なのだ。
「私は貴方のことをずっと忘れないわ、貴方以外の人を好きになることもない」
「ルダ……」
ライはルダの華奢な体を強く抱き締める。ルダがつけている甘い香水の匂いが鼻腔をつく。
ライはこの匂いが大好きだった。ルダが気を利かせてつけてきたのだろう。
ルダの瞳から一筋の涙が零れた。恋人との別れを惜しむように……
「今まで一緒にいてくれて有難う、眠りについても君のことをずっと考えているよ」
ライは静かに囁いた。
「ルダ……愛してる。永遠に」
「私もよ……ライ」
静けさが包む中、二人は最後のキスをする。
お互いの体を抱き締めたまま。
しばらくするとライはそっと離れ、黙ったまま歩き、光に入る手前でピタリと止まり、ルダを再び見た。
ルダは涙を流したまま、ライを見つめていた。
「俺も君を忘れない、君の幸せを願っているよ」
ライは柔らかな微笑を浮かべ、光の中に入る。
愛しい人の姿も、光によってすぐにライの視界から消え去った。
ライの意識はゆっくりと遠のいていった。
眠りに付く時まで、ルダと過ごした日々を思い出しながら……
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あとがき
昔書いていた参加型小説を一次創作にリメイクしました。
ライ……ライさん
ルダ……創作
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