「少しは分かったか? お主の母親の気持ちが」
みけ猫に声をかけられ、俺は黙って頷く。
「あい……いや母さんも苦しかったんだなと思ったよ」
俺は絞り出すように声を発した。
「俺、何てバカなことをしたんだろう、相手の気持ちを知らないで」
後悔の波が心を押し寄せ、俺の目元が熱くなる。
死んだ今になって自殺したことを悔いるなんて……
「人間の心は全て分からん、お主の母親が見せていたのは一部にしか過ぎん」
みけ猫は優しく語りかけた。
俺は身を屈めてみけ猫の体に両手を当てた。
「俺……母さんに言いたい……俺のために頑張ってくれて有り難うって」
俺は心から言った。
一言伝えないと気が済まない。
みけ猫は神妙な顔で俺を見据えた。
「お主はもう一度人生をやり直したいと思うか?」
「そんな事できんのかよ」
「ワシは神様じゃからな、できんこともない」
みけ猫は真剣な物言いだった。
この機会を逃せば後悔する気がしたからだ。
「頼む、俺にチャンスをくれ……じゃなかった下さい!」
俺は躍起になってみけ猫にお願いした。
再度生き返ったら、俺は自殺せずに懸命に生きる。
「二度と自死を選ばないと誓うか? また自死したらワシは助けんぞ」
「誓う」
俺は力強く言った。
「良かろう、お主を信じてお主が死ぬ前に時間を戻そう」
「何でだよ」
「死んだお主が急に生き返ったらあの場は大騒ぎになるからのう」
「言われてみればそうかもな」
みけ猫の意見に妙に納得してしまった。
棺に収まっている俺が起き上がったらやばいかもしれない。
みけ猫の目は再び黄色に輝き始めた。
「中村大雅、人生を大切にな」
俺の周囲は真っ白になり、足元が無くなり、俺は落ちていった。

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