アステは母の側を歩いていた。
母に合わせてゆっくりと。
「ママ」
アステが声を掛けると、母はアステの方を向く。
「なに」
母はどこか寂しげだった。
「さっきのお墓の人は誰なの?」
アステは訊ねる。
アステは初めて母に連れられ墓参りに来た。今はその帰りだ。
母の表情から明るさが消えていることが、子供のアステには気がかりだった。
しばらくの間黙っていたが、母はアステの頭を優しく撫でて口を開いた。
「お墓の人はママの弟なの」
「……おとうと?」
「分かりやすく言うと、アステのおじさんに当たる人ね」
母は表情が暗いまま言った。
そんな母の顔にアステの心はちくちく痛んだ。
「アステが産まれて来る前に……事故で死んだの」
母の声は消え入りそうだった。
母がいかに言うのが辛いのも伝わるくらいに……
アステは母の体に抱きついた。
「ママ……ごめん……オレ……」
アステは謝った。
自分がお墓の話を持ち出したせいで、母を悲しませた気がしたからだ。
「アステは優しい子ね、ママの心配してくれて」
母は穏やかな口だった。
「おじさんはね、見えなくてもアステを見守っているわ」
母は少しだけ笑った。
「見守ってるって、どういう意味?」
母の言葉は難しく、アステは首を傾げる。
「アステが元気に育つように見ているの」
「……ずっと?」
アステの問いかけに、母は頷いた。
「じゃあママも見てるのかな」
「きっとね」
母はアステの手を繋いだ。
握られていると、暖かく、安心した。
「帰りましょう、パパも待ってるし」
アステは母と帰路についた。

アステは母・スピカと忘れられない時間を過ごしたのであった……

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