栞は 好きな本、小物、友達からのプレゼントを選別しながらダンボールに詰め込んでいる。
父の仕事先の関係で住み慣れた地を離れ引っ越しをするからだ。
「ん?」
栞は一個の消しゴムを発見し、じっと眺める。
小学四年生の時に使っていたものだ。
懐かしさと共に、忘れていたことが頭の中に鮮やかに蘇る。

栞の隣には遥がいて、遥はペンケースの中を 必死に探していた。
気になった栞が声をかけると、遥は恥ずかしそうに「消しゴムを忘れた」と口走る。
栞は二つあるうちの消しゴムの一つを遥に渡した。
「あ……ありがとう」
遥は頬を赤らめてお礼を口走る。
消しゴムにもまだ余裕があったので栞は言った。
「良かったらあげるよ」
栞の言葉に遥は一回頷く。
その後遥は栞がくれた消しゴムを使ってくれた。
が、遥と話をしたのはそれっきりで、休み時間は友達と話していた。
学年が上がっても同じだった。

「石坂……さん……」
栞の目から涙が出る。
小五の最後に何故自分にだけさよならと言ったのか何となく理解できた。
栞が消しゴムをくれたことが嬉しくて忘れられなかったのだ。
二年経過しても遥は見つからず、遥の家族は遠い所に引っ越し、家は更地になってしまった。

涙を拭い栞は思い出の消しゴムをダンボールに入れた。遥のことを忘れないためにも……


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