「……今日のことは内緒だからね」
公園のベンチに腰かけるなり遥は口を開く。
遥は栞をベンチに誘導したのだ。
「あれ……何なの?」
遥の隣に座る栞は訊ねる。
「分からない? あれは魔法陣よ」
「魔法陣?」
聞き慣れない単語に栞は首を傾げる。
遥は呆れた顔をしていた。知っていて当然と言わんばかりに。
遥は丁寧に説明してくれた。魔法陣は文字や紋様で形成される図で悪魔を呼び出す、人を呪う、魔力を高めたりすることができるという。
栞は魔法とかそういった物は好きだ。小さい頃に魔法少女の話に夢中だったからだ。
しかし遥の話は栞が考える飴が出るとか楽しいものではなく、どこか不気味に感じるものだった。
「随分詳しいね」
「オカルトが趣味なの」
遥は口元をつり上げる。
警戒していたはずが、趣味のことで気分が良くなったようだ。
「いつも公園で魔法陣描いているの?」
「いつもって訳じゃないわ、人がいない時を見計らってやっているの」
確かにこの公園は栞と遥以外に人はいない。
「何のために?」
栞は肝心なことを訊ねる。
遥はベンチから立ち上がり、三歩進んで栞の方を向いた。
さっきと違い、表情が曇っている。
「あの男を殺すためよ、ママをいじめるあいつをね」
遥は怒りを滲ませていた。その証拠に遥の手は震えている。
「今描いている魔法陣には願いを叶える効果があるの、もうすぐ完成するわ
そしたらあの男はいなくなって、ママは泣かなくなる!」
遥の目は真剣だった。
怒り、憎しみといった感情が遥から伝わってくる。
「失敗しても何度でも続けるわ、あの男が苦しみ死ぬまでずっとね!」
遥の言葉に、栞は背筋がぞくっとするのを感じた。
遥は本気だと。
「もう一度言うけど今日のことは秘密だからね」
遥は怒りの色のまま、栞に顔を近づける。
「もし言ったら……あなたを呪うから」
遥は囁いた。
栞は口を挟めなかった。いやそういう余地がない。
怖くなった栞は公園から逃げ出した。りさとの約束は果たしたがどうでも良くなった。

石坂遥とは仲良くなれない、と栞は思った。魔法陣で人を呪い殺そうとしているから。
もし今日のことをうっかり誰かに話したら自分が呪われるからだ。
りさに言ったら「呪いなんてあるわけないじゃん」とバカにされるかもしれないが、負の感情に満ちた遥の目を見て迫られたらりさも考えを変えるだろう。
栞は明日りさに会った時何と言おうかじっくり考えた。そうしないと遥の形相が浮かぶからだ。

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