生徒会長は急ぐ 作者:ねる

「ふぅ……」
グロリアは紅茶をテーブルに置き、窓の外を眺めた。
夏祭りの会場となる大巳神社が見える。
「明日が楽しみですね」
グロリアは穏やかに言った。
彼が座っているテーブルには、夏祭関係のプリントが置かれている。
先ほどラスティンが現れ、祭りの準備が完璧に整ったことを報告し、高笑いをして去っていったのだ。
グロリアがテーブルに戻ろうとした時だった。
ドアを叩く音が部屋全体に響く。
「グロリア先輩、いらっしゃいますか?」
女子の声だった。
グロリアは扉を開くと、女子生徒が不安げな表情を浮かべている。
「そんなに慌ててどうしたのですか?」
「一大事です、伊澄先輩が星野先輩に絡んでいます。すぐに来て欲しいんです」
女子生徒の話からして、緊急事態だということが伺える。
「分かりました。その場所に案内してください」
「はい!」
グロリアは女子生徒の後についていった。
同時に明美の無事を祈った。

一階に来るなり、廊下には男女の声が響き渡る。
「答えろ、オレの蛇嫌いを教えたのはどこのどいつだ?」
「その様子じゃ、虚首さんはあなたに必要な事を教えなかったようね」
「アイツは機嫌が悪くてな、オレが聞いても邪険に扱われた。だからテメエに直接聞こうと思ったんだ」
グロリアが前に進むたびに、二人の会話は進行する。
苦手な蛇を教えた人物の名を明美から引き出したいのだ。
「答えろ、オレの蛇嫌いを教えたのは誰だ?」
「……」
「黙ってねぇで何とか言えよ、死にてぇのかテメエ」
「答えることはできない、あなたに情報を漏らせば相手を殴りに行くんでしょう、教えるくらいなら死んだ方がマシよ!」
「なんだと!」
廊下に風船が割れたような音が響く。
グロリアが現場に到着すると、明美が頬を押えて倒れこんでいた。
慧が憎しみを交えた目で明美を見据える。
状況からして慧が明美に手を上げたのは一目瞭然だ。
「ケイさん……あなた」
グロリアはゆっくりと前に出る。
生徒会長の登場に、慧は表情を歪めた。
「明美さんを殴りましたね、暴力を減らすように注意したはずですよ」
グロリアが慧に近づくと、慧は「くそっ」と舌打ちをして、廊下を走り去っていった。
慧を咎めたいが逃げてしまった以上、明美の介抱が先だった。
「大丈夫ですか?」
「……はい」
明美は力なく言った。
「保健室に行きましょう、歩けますか?」
「平気です」
グロリアは明美の体を支えて、一緒に歩き出した。


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