風紀委員は対立する 作者:ねる

「毎度有難うございます」
明美は購買部で蛇の玩具を購入し、袋に入れた。
購買部を後にし、明美は買ったばかりの蛇の玩具をそっと出す。
可愛いく舌を出し、目が丸く、明らかに悪戯に使えそうだ。
「龍前くんが言ったのは本当なのかしら?」
明美は後輩の言流が話していた内容を思い出してた。
『おもちゃでもいいから投げればいいんだよ、苦手なものは苦手なんだし』
言流の明るい笑顔が印象に残る。
彼は情報通で、嘘をつくようには見えない。
蛇の玩具を買ったのも、慧の対策のためだ。
先ほども言流に食って掛かるような態度を見せ、授業をさぼったのである。
言流の話では、慧は蛇が苦手だという。
「……龍前くんを信じよう」
明美は小さく笑い、袋を持ったまま購買部から高等部のある校舎へと戻った。
高等部への階段を登った、その時だった。
「テメエ、今オレを睨んだろ」
刺々しい口調が、明美の耳に飛び込む。
紛れも無く慧の声である
明美は廊下を曲がると、慧が男子生徒に食って掛かっていた。
「に……睨んでなんかいません」
男子生徒が怯えながら言うと、慧は怒鳴った。
「嘘つくな!」
慧は男子生徒の胸倉を掴み上げる。
流石に止めないといけないと判断し、明美は「やめなさい!」と男子二人の間に入った。
「あなた、こんな事をして恥ずかしくないの?」
明美は慧を睨む。
慧が何かと理由をつけて食って掛かるのは、今回が初めてではない。
明美は数え切れないほどに注意をしていが、彼の行動が改まる気配が一向に無い。
「んだと……」
慧が手を上げようとした瞬間、明美は袋に入っていた蛇の玩具を慧の前に見せつけた。
すると慧は手を止め、表情を強張らせた。
言流の言ったことは本当のようだ。悪態をついていた彼が動揺している。
「あなたの行動が改まるまで、蛇の玩具を見せ続けるわ……いい?」
明美はお札のように蛇の玩具を慧の顔面に押し当てる。
慧は表情を歪め「チッ」と舌打ちし、明美に背を向けた。

明美は胸に手を当て、ほっとした。
注意していて怖くなかったというと嘘になる。明美の額には冷や汗が流れ、緊張しているのが自分でも分かる。
しかし困っている人間がいる限り、明美は逃げたくなかった。
「あの……」
男子生徒が明美に声をかけてきた。
明美が振り向くと、男子生徒は頭を下げた。
「有難うございました。助かりました」
男子生徒は柔らかな笑みを浮かべる。
「どういたしまして、また何かあったら知らせてね」
「はい!」
男子生徒は明美の前から去っていった。
「龍前くんには感謝しなきゃね」
明美は蛇の玩具を入れた袋を手に、廊下を歩いた。


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