高等部校舎で 作者:コタ。@のんびり運営さん

「はい、は~い。
各校舎図書室ですね、はーい。明日の夕方までにですね、はーい、やっときまーす。」
中等部2年の言流の元気な声が高等部校舎の1階廊下に響き渡る。
と、同時に、ピッと携帯の通話終了ボタンを押す。
「楼蘭先輩からお願いされちゃった~」
にこにこしながら言流は携帯をズボンのポケットになおす。
すると、中等部校舎の方から高等部1年の明美がこちらへ歩いてくるのが見えた。
「あ、明美先輩~。」
言流はすかさず明美に駆け寄る。
「あ、こら。
龍前くん、廊下は走っちゃダメでしょう。」
「はーい。ごめんなさい。」
駆け足で近づいてきた言流を風紀委員である明美は注意する。
それに素直に謝罪する言流だが、なんとも反省しているようには聞こえない。
「で、何?
私に何か用?」
「ん?用ってほどじゃないけど…
そうだ!明美先輩は夏祭どうするの?」
「え?私?」
急に自分の予定を聞かれて戸惑う明美。
「そうね…一応参加するわ。
夜にあるイベントですもの、やっぱり浮かれて迷惑行為をしてしまう人も居るかもしれないから、その注意も兼ねてね。」
まじめに答える明美に
「あはははは、明美先輩らしいなぁ
でも、お祭りなんだから楽しんだ方がいいと思うよ?」
と言う言流は常に楽しそうである。
「大丈夫、ちゃんと楽しむわよ。
でも、規律も大事よ。」
言流のふわふわした浮かれ気質に釘を刺す。
「あはははは。はーい。
いい子で楽しんで来まーす。」
言流は右手を高らかに上げて元気に返事をする。
と、
「うるせぇぞ、ガキ!」
と言流の後ろから怒鳴り声が飛んでくる。
びっくりした言流が振り返ると、そこには先ほど教室を出た1年の慧が高等部の玄関に歩いてきていた。
「あなた、年下に向かってそんな言葉を言わないで!」
「うるせぇ!俺が何を言おうが勝手だろうが!
死にてえのかテメエ!」
何が癇に障るのか、慧は常にこんな感じに棘棘としている。
注意されたことに更に気分を害した慧はそのまま自分の下駄箱の方へと進み、靴を履き替える。
「ちょっと!
もうすぐ授業が始まるわ、教室に戻りなさい!」
どんなに怒鳴られても明美は怯むことなく注意し続ける。
けれど、慧は後ろから飛んでくる明美の言葉を無視して校舎から出て行ってしまった。
「あ、帰ってきなさい!
こら!伊澄1年ーーー!!」
明美の言葉は無駄に玄関に響くだけになってしまった。
その結果に、明美は肩を落としため息をつく。
今までのやり取りを黙って言流は明美の様子を見続けていた。
それに気づいた明美は
「あ、ははは。
龍前くんも教室に戻りなさい。」
と、何とかもなかったような素振りで言流に言うが、どう見ても空元気である。
それを不満に感じた言流は頬を一瞬膨らませるが、すぐに笑顔を作り。
「ねえねえ、明美先輩。
いいこと教えてあげるから、耳かして~」
と手招きする。
何の事だかわからない明美は、素直に言流に右耳を近づける。
そうすると、両手で明美の右耳と自分の口を隠すようにすると
「あのね、あの先輩ね、実はね~
………………。」
「---え?」
言い終わった言流はきょとんとする明美に
「だから、本当に怒ったらおもちゃのでもいいから投げつけちゃえばいいんだよ。
苦手なものはおもちゃでも苦手みたいだし。ね?」
と、言流は笑いながら言う。
「…どうしてそんな秘密、龍前くんが知ってるの?」
「ん?ぼっくんにわからないことはないよん。」
言流はにかっと笑顔を作って言い切る。
その言葉に、きょとんとするが、幸せそうな笑顔に連れられるように明美にもふふっと笑顔がこぼれた。
「じゃ、ぼっくん教室に戻るね~」
と、中等部校舎へ向かい、繋がる渡り廊下を駆けていこうとする。
「あ、こら!走っちゃダメよ!」
元の調子に戻った明美は再び、いつも通りに注意する。
それを
「はーい。ごめんなさーい。」
と、手を振りながら教室まで駆けていく。
消えていく言流の後ろ姿をため息混じりに明美は見送っていると、先ほど通過したはずの工作室の扉が開きっぱなしなことに気が付いた。
どうして気づかなかったのかしら…。
そう思いながら工作室に近づいていくと、誰かの話し声が聞こえてきた。
「だから、やっぱり参考までに一見しとくのは価値があるとは思うから、できたら明日の晩か当日にでも時間を見つけて覗きに…。」
妙に熱心な話し声だ。
けれど、もうすぐ授業が始まる。
明美は、ひょこっと扉から中を見るなり
「もうすぐ授業が始まります!教室に戻ってください!」
と工作室内の誰かに注意する。
「わぁ!?」
とひとり、驚いた声を上げたのは蒼空だった。
「なんッスか?ふぁぁ~
もう授業ッスか~ごめんごめん。」
と大欠伸をしながら凌は答える。
なんとも怪しい二人。
覗くとか何とか言っていた。
そう明美は考えると
「何か変なこと考えてたんじゃないですよね?」
と質問をする。
「変なこと?何のことッスか?
ほら、オレ、寝てたし…ふぁぁぁぁぁぁ…。なぁ?」
再び大欠伸をする凌。
「え、うん。僕も。」
振られてギクシャクするも蒼空も何とか返事を返す。
「…怪しいわね…。」
そう明美が言った時、授業開始のチャイムが校舎に響く。
「やだ!授業始まっちゃったじゃない!?
あなたたちも速く教室に行きなさい!いいわね!」
そう言い捨てるように最後の注意をした後、明美はできる限りの「歩み」の速度で自分の教室へと向かった。
そんな、明美を見送った二人は、
「秘密にしといた方が面白いだろ?」
と凌がにやっと笑い、蒼空もにーっと笑みを作った。

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