風紀委員は喫茶店に入る 作者:ねる

明美が朝の屋台を巡回していると、黒髪の少女が自動販売機を殴っているのを見かけた。
迷惑行為を見過ごせず、少女に注意する。
「そこの貴女、何してるの!」
明美が声をかけると、体を跳ね上がらせつつ黒髪の少女は明美の方を向く。
十分間、明美は少女から事情を聞くなり、自動販売機に視線を移す。
「全く……確かにこの自販機は良くおかしくなるって有名だけどこんな無茶していい理由にはならないわ」
明美は少女に言った。
自動販売機がおかしくなることは有名で、明美も時折利用するが、動かなくなる事がある。
「すみません……少し混乱しちゃって……」
少女は素直に謝った。
「分かってくれたならいいわ。で、あの喫茶で朝御飯食べるんでしょ? 一緒にどう?」
明美は少女を誘う。
昨日と引き続き、食堂が休業中のため、朝食がまだだった。
雪乃と一緒にとるつもりだったが、雪乃は用事が有るため、一人で食べることになった。
こうして少女と出会ったのも何かの縁かもしれない。
「あ……ハイ……よろしければ……」
少女は自動販売機から小銭を確保していた。
明美は少女と共に『あにこすっ♪』の暖簾を潜ったが、開店準備中のようで声が聞こえる。
「早く起きないと~お・め・ざ・め・の♪キスしちゃうぞ♪」
「冗談はよせ!」
「起きても~おはようのキスがあるんだよぉ? どうせ昨日もしてくれたんだし減るもんじゃな~い!」
「あれはいろいろと事情があったんだよ!」
陽向と蒼空の声がしたと思いきや、バタバタ……と逃げ回る音がした。
朝から元気の良い二人である。
明美は二人を注意しようと、少女を残して声がする方へと進む。
「奥の二人何してるの! 不純異性交遊は……」
明美が注意すると、声の主である陽向が顔を出した。
「不純じゃないもん! 純粋な~……愛、です!」
「一時の気の迷いよ! せめて結婚可能年齢になってからにしなさい!」
明美は凛々しく注意した。
明美が知る限り、陽向はまだ十四で、まだ結婚できる年齢ではない。
「結婚可能年齢になったら止めてくれないのか!?」
蒼空が悲鳴に近い声を上げる。
明美は陽向としばらくの間言い合いになった。

それから三十分後……

お腹が空き、明美は息をハアハア……と切らす。
陽向も疲れた表情をしていた。
「愛に年齢はカンケーないもん」
陽向は口を膨らます。
まだ納得しきっていないようだ。
「……と、とにかく、交際は結婚可能な年齢になってからよ」
明美はそれ以上言えなかった。
口論にエネルギーを使う余裕が明美には残されていなかった。
頭を切り替え、明美はこれからのことを考えた。
今は朝食を済ませたい。
しかし、陽向と口論になったため、ここで朝食を摂るのは気まずい。
よって別の場所で食べることにした。
明美は少女の方に目を向けるが、少女はいつの間にかいなくなっていた。
……あの子は何者だったのかしら?
明美は疑問を抱きつつ、陽向に謝る。
店の雰囲気を悪くしたと思ったからだ。
「騒がせてごめんね、私は店を出るわ」
軽く頭を下げ、明美は足早に店を後にする。
食事を提供する屋台なら他にも色々あるから、そこで何か買おうと決めた。


風紀委員は少女と語る・その2 戻る 風紀委員と幼馴染・その1

inserted by FC2 system