風紀委員は少年と過ごす 作者:ねる

明美は慧に救い出され
駆けつけた警官に色々聞かれたものの、数時間後には解放された。
警察署に来た家族からは心配され、明美は説明するのが大変だった。

 

明美を誘拐した不良たちは今でも事情聴取を受けているという。

その後、明美は復学し
教室でも幼馴染の翔太や、友達の雪乃と陽彩にも質問攻めに合った。

 

寮に戻るなり、明美はベッドに倒れこむ。
「あー疲れた」
明美はベットの上で、大の字になる。
教室で級友達の対応に追われたのもそうだが、こういう日に限って校内でのトラブルに対応しなければならず
疲労が溜まったのである。
宿題も出ており、その上量が多いので、こなすのも頭がくらくらする。
「伊澄……学校来なかったな」
明美は呟く。
慧は明美にアップルパイをおごってくれたこともそうだが。
不良を撃退して、明美を助けてくれた。
明美が先生に取り計らい、どうにか彼を謹慎にせずに済んだものの、本人は学校に来なかった。
彼の出席日数を考えると、進級が危うい。
考えている時だった。扉を叩く音が響いた。
明美は体を起こした。
「どちら様ですか?」
「オレだ」
紛れも無く慧の声である。
前より立ちくらみはしないが、それでも緊張はする。
「どうしたのよ」
「テメエのお陰で、謹慎にならずに済んだのは礼を言うぜ」
慧の声色には棘が含まれていなかった。
「あなたの方は平気なの、警察に何か言われたりしない?」
礼を受けつつ、明美は彼に聞く。
粘着質な警察の質問に、明美はうんざりしたからだ。
「オレはああいうのには慣れっこだからな」
「なら良いんだけど」
慧の返事に、明美は安心した反面
彼の今後が気に掛かった。
「出席日数の方は大丈夫? 先生もずい分心配してたわよ」
「同じ授業を何年も聞いてられるかっての、きっちり計算してサボってる」
慧は言った。
「じゃあな、オレは行くぜ」
彼の足音が遠ざかって行った。
今回は何かと慧には世話になった。このまま礼をしなければ後味が悪い。
これからも学園内の暴君として、明美は注意し続けるだろうが
それでも、今言わなければ後悔する気がした。
「伊澄!」
明美は扉を開き慧に叫ぶ。
慧は足を止めて、明美に向き直る。
「有難う、あなたのお陰で助かったわ」
明美は吐き出すように言った。
慧は困惑した表情を見せた。因縁のある明美が礼の言葉を述べるなど無いからである。
少しすると慧は、ああ、と返事をした。

 

その後、慧は相変わらずの暴君ぷりを見せ
明美は風紀委員として彼を注意するのであった……

 

しかし、慧に対する見方に対しては
少しだけだが変わったのである。



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