風紀委員は少年と過ごす 作者:ねる

天気が暗くなり、雨が降りそうであった。
慧はいつまでも明美が戻ってこない事が気にかかり、外に出る。

しかし、明美の姿はどこを探しても無い。

 

「ちっ、あいつどこいったんだよ」
慧は舌打ちをする。
そんな時だった。慧の携帯電話が鳴り響く。
雨が頬に当たり、慧は喫茶店の屋根の下に行った。
「何だ」
『久しぶりだな、ケイの兄ちゃんよぉ』
声を聞いて寒気がした。
胸の中には嫌な予感が走る。
『用件を伝えるぜ、兄ちゃんの連れの女はオレ達が預かっている』
「……っ!」
『返して欲しければ町外れの倉庫に来るんだな、来なきゃ女がどうなるか分かるよな?』
慧の瞳に殺気が宿る。
間違いなく、過去と同じ展開だからだ。


そう、彼にとって忘れられない
出来事だった……

 

明美が瞬きをするまでもなく、慧が素早い動きで不良たちを片付けていった。
繰り出す蹴りに、打撃は見事に決まっており、相手が手を出す余裕を与えない。
明美を拉致した不良はあっと言う間に地面に伏した。
慧は明美の元に来るなり、明美を拘束する紐と口をふさぐ布を外した。
「大丈夫か」
「心配いらないわ」
明美は制服をはたいて立ち上がる。
「あなたこそ、怪我はない?」
明美は慧の身を案じる。
いくら慧が喧嘩慣れしているとはいえ心配だ。
「オレのことはいい、殴られても平気だ。だけどテメエは女だからな傷ついたら困る」
慧はぶっきらぼうに言った。
彼なりに明美を案じているのが伺える。
今までの慧は学園の暴君で、危険人物としか思っていなかった。だが明美にアップルパイをおごってくれたり、身を削って明美を救出してくれた。
一日で慧の違った部分を見ることが出来た。
「伊澄……」
「行くぞ」
慧は短く言った。


が、その時だった。
一人の不良が立ち上がり、襲い掛かってきた。
「ちっ、しつけえな」
慧が殴りかかろうと矢先だった。
明美がとっさに動き、持っていた催涙スプレーを相手に吹きかける。
相手は顔を抑えて怯んでいる所に、慧が顎に右ストレートを叩き込み、気絶させた。
「危ねぇじゃねえか」
「伊澄にずっと頼りっぱなしだったし、役に立ちたかったの」
明美は催涙スプレーをポケットにしまう。
慧は背中を見せたままだった。
「……まあ、テメエのお陰で助かったぜ」
「どういたしまして」

 

外からサイレンの音が響く。
状況からして警察のものだ。

 

誰が読んだのかは察しがついた。
屋上の少女の仕業だと。



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