風紀委員は少年と過ごす 作者:ねる

人の話し声がきっかけで、明美は目を覚ますことになった。
「……のヤツ来ますよね」
「来るさあいつの女がここにいるんだしな」
「しかし、ヤツも色気づきましたね、女を作るなんて……」
男達の話を明美は黙って聞いていた。
明美は体を動かそうとしたが、すぐに自分の異変に気付いた。両手足が紐で縛られており、口も布で塞がれている。
状況からして、拉致されたことは明白だった。
一体この男達は何者なのだろうか。なぜこんな目に遭わせたのか、聞きたいことが山ほどあった。
すると、図体の大きな男が明美が起きた事に気付き、こちらにやって来た。
「よう、起きたか」
男の声には聞き覚えがある。
意識を失う前、明美が最後に聞いた声だった。
「ん! ん!」
明美は喋りたいと訴えんばかりに必死に声を出す。
もう一人の男が、ジェスチャーで口元に手を当て、外せと伝える。
「大丈夫なんすか?」
「アイツが来るまで喋らせてやれ」
「へいへい」
男は口を塞いでいた布を乱暴に取った。
明美は何度か深呼吸をする。
「あなた達、一体何なの?」
単刀直入に明美は訊ねた。
明美の記憶の中にも、男達との面識は無い。
男はニタリと不気味な笑みを見せた。
「姉ちゃんは知らないか、ヤクザの世界を、オレらはヤクザの人間なんだよ」
ヤクザと聞き、明美の胸には不安が込み上げた。
よく見れば、男達の外見は柄が悪そうで、近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
ますます分からない、自分はヤクザ絡みの人間との付き合いは無い。なので彼等との接点は考えられない。
「どうして……誘拐なんかしたの?」
明美は一番知りたかった事を口にする。
「森田さんどうします。こいつに話して良いですか?」
森田と呼ばれた男は、男と明美を見る。
何となく分かったが、口振りからして男は森田の部下のようだ。
「構わん、その女にも知る権利があるからな」
「分かりやした」
了承を取り、男は明美の顔を見た。
「姉ちゃんよぉ、ケイの兄ちゃんのことを知ってるか」
ケイと聞き、明美はすぐさまに頭の中に一人の男子生徒が浮かんだ。
さっきまで喫茶店で明美と一緒にいた伊澄慧である。
良い意味と、悪い意味でも彼とは面識がある。
「知ってるわ、それが何か」
「オレらはなあ、親分をケイの兄ちゃんに潰されたんだ、その報復をするために姉ちゃんを誘拐したって訳よ」
何となくだが、男の話が読めてきた。
慧の立場が不利になるように、彼と面識がある女……つまり雪乃をさらおうしたのだ。
卑怯だが、戦力を削ぐのにはもってこいの方法である。
彼等は勘違いをしている。ここにいる少女が雪乃でないことを。
それでも慧をおびき寄せる人質には変わりない。


……と、その時だった。


「やっぱりテメエらか」
聞きなれた声が、明美の耳に飛び込む。
明美はその方角を見ると、そこには慧が立っていた。
「伊澄……」
明美は慧の名前を呟いた。



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