翔太、優、哲の三人は休憩室で待機していた。
退屈のあまり、翔太は天井を見つつ、机に足をかけていた。
「あー暇だぜ」
翔太は呟く。
「行儀悪いですよ、先輩」
紅茶をすすっていた哲が、カップから口を離して注意する。
「全くだよ、君の育ちの悪さが伺えるね」
優が間を入れずに突っ込んだ。
三人は教育係である明美に休憩室で待機するように言われたのだ。
休憩室は冷蔵庫やポットなどが置かれ、三人が食事に困らないように配慮されているが、暇潰しになりそうな物は新聞以外には置いていない。
「流石は姉さんだね、娯楽が無いなんてさ」
新聞を眺めて優は言った。
「お前そんなつまんねーもんよく読めるよな」
「君は新聞を読まないのかい?」
翔太は足を下ろし、机に体を乗り上げる。
「オレは新聞より、漫画を読むぜ!」
翔太ははりきって言った。
新聞を読む習慣が翔太には無く、どちらかと言うと格闘漫画などの方を頻繁に読む。
「高校生になったら一日に一回は新聞を読むべきだよ、世の中の仕組みは知っておかないとね」
「オレはお前とは違うんだよ」
翔太は言い返す。
新聞など読まなくても生きていけるという自負しているのだ。
二人が会話を交わしている時だった。暗くなっていたテレビ画面が急に明るくなり、タイトルを映し出した。
『創楽学園プレゼンツ・悲しきライブハウスの戦い』
タイトルを見て、翔太が眉をひそめた。
「何だ? あれ」
「僕にふられてもね~」
「静かにして下さい、始まりますよ」
哲が声を小さくした。
画面の中には制服を着た明美が出てきた。
しかし彼女の服はあちこちが汚れ、顔も泥だらけだ。
「あけみん、何であんな汚れてんだよ」
翔太が不安げに言った。
彼が指摘するほど、明美の容姿はボロボロである。
『よくも……よくも……翔太くんと優を!』
彼女が言うと、明美の足元には翔太と優の頭が写し出される。
二人は顔を伏せたままで、頭だけしか見えない。
「あれが僕?」
優は言った。
名前を言われた本人達は映像に出演した覚えはない。なので画面の二人は別の人物ということになる。
だが、次に写った人物を見て、三人は驚くことになる。
『あら……随分図太いのね、あなたも』
「ぷぷっ!」
翔太が噴出し、手を机に何度もたたき付けた。
音楽が鳴り響き。その直後に
「翔太くんアウト」
という明美の声が聞こえた。
黒ずくめの人間が入ってきて、翔太の背後に来た直後に彼のお尻に痛みが走った。
「いてぇっ!」
翔太はお尻を押さえる。
「確かに輝宮先生は反則だよね~」
優は映像を見て言った。
翔太が笑った原因は映像にあった。画面の中には派手な化粧をした輝宮まりあ先生がアップで出ていたためだ。
普段のまりあとギャップがあるため、つい吹いてしまったのだ。
ライブハウスでバイトをしている中では何があっても絶対に笑ってはいけない。
笑うと今のようにお仕置きを食らう。
「翔太くん、君は相変わらず我慢ができないね~」
「仕方ねーだろ、可笑しかったんだからよ!」
翔太は涙を拭った。
「お前等よく堪えられるよな」
「叩かれたくないですからね」
翔太が席をつくと、哲が口を開く。
哲は変な汗を流し、やせ我慢しているのが伺える。
まりあのギャップに彼も笑いたくて仕方ないのだ。
映像は続いた。
『図太いのね……貴女も』
『そんな簡単にはやられないわ、だって私は強いから!』
明美は手から何か取り出した。それは巨大な筆で、筆には「美味しく焼けました~」と書かれていた。
シリアスな台詞にそぐわない内容に、三人は揃って笑い転げた。
「全員アウト」
明美がアナウンスすると黒ずくめの人間が現れ、三人にハリセンのお仕置きを与えた。
「何だよ! アレ!」
翔太が指を差す。
「一筋縄ではいかないね」
「言えてます」
優は尻をさすり、哲は呼吸を整えた。
「いや~しかし筆にあの字は反則だよね」
字を見つめて優は言った。ご丁寧に映像は再び二人のやり取りから始まった。
『図太いのね……貴女も』
『そんな簡単にはやられないわ、だって私は強いから!』
明美が文字入りの筆を出し、まりあに向かっていった。
しかし巨大な筆を持った彼女の動きは遅く、どう考えても相手がよけられるとしか思えなかった。
「あれじゃあどんな馬鹿でも回避できるじゃん」
「何でオレを見るんだよ!」
優は翔太をじっと見て、翔太はすかさず反応した。
だが、次の瞬間三人はまたしても笑うことになる。
何故ならまりあは巨大な筆に直撃し
『今日の晩御飯楽しみだったのに』
そう言ってまりあは倒れた。
有り得ない展開に休憩室は三人の少年の高笑いに包まれた。
三人はお仕置きを受けると同時に映像は終わった。
「結局あの映像はなんだったんだ?」
翔太は机に顔を置いた。
「僕たちをハメめるために姉さんが仕組んだんだよ」
優は冷静に言った。
今の現状からして、優の意見が最もである。映像を見て三人はハリセンを食らったからだ。
「輝宮先生が出演してるのは驚いたけどね」
「ギャップがありますね」
哲は顎に手を当てる。
「でもよ、今の映像ってライブハウスに関係あんのか?」
「無いね」
翔太の疑問に優が返す。
「しっかし、殴られ過ぎてケツがいてぇな」
翔太は尻を擦る。
「さっきも言ったけど、我慢した方が君のためだと思うけどな」
優はやんわりと忠告した。
三人の勤務はまだまだ終わらなかった。

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