十二月二四日
クリスマスイブ。

「有難うございます」
明美は店員から袋を受け取った。
カウンターから離れ、明美は中身を出して再度確認した。
「気に入るかな、翔太くん」
手に持ち、明美は呟く。
彼女の手には、紺色のマフラーが握られている。
翔太へプレゼントをするために購入した。
この後、翔太と待ち合わせの約束をしており、一度家に戻りマフラーを梱包する。
「大丈夫よね」
自分を励ますように言うと、明美はその足で校舎を後にした。

人気の無い校舎裏に翔太はいた。
翔太は自分の手に白い息を吹きかけており、明らかに寒そうだった。
明美は大事そうにプレゼントを抱え、翔太の元に駆け寄る。
「翔太くん!」
明美が声を掛けると、翔太は明美の方を見た。
「ごめんね……待った?」
「いや、さっき来たばっかだよ」
翔太は明るく返事をする。
「それより、そのデカイ袋どうしたんだよ」
「あ、これね」
翔太に指摘され、明美はプレゼントを差し出す。
「今日は翔太くんの誕生日でしょう? だから……」
今日はクリスマスイブでもあるが、翔太の誕生日でもある。
「プレゼントだな」
明美は黙って頷く。
翔太はプレゼントを手に持った。
「開けていいか?」
「いいよ」
ドキドキしながら明美はプレゼントが開封されるのを見守る。
男の子が喜びそうなプレゼントは何かが分からず、先輩に聞いた所によると「男子は実用品をあげると喜ぶ」という。
色々悩んだ末、冬の防寒具であるマフラーにした。
なぜなら翔太は学校に来る際に防寒具を身につけていないからだ。運動の一環だと言うが、明らかに寒そうだ。
「おっ」
マフラーを手に翔太は声を上げる。
明美は恐る恐る口を開く。
「どう……かな?」
翔太はマフラーを首に回し、穏やかに微笑む。
「暖けーな、色も俺の好みだし」
「本当?」
明美は確かめるように訊ねる。
無理に好きだといって欲しくないのだ。
「大丈夫だって、俺は桃色以外なら何でもオーケーだよ」
翔太は明美の肩を叩いた。
明美は安堵のため息をついた。翔太にプレゼントを拒否されたら傷つく。
前にも一度好意を持った人間にプレゼントを渡したが、気に入らないという理由だけで、返されたことがある。
そうなることが嫌だったからだ。
翔太の顔を見ると、本当に安心した。
「そうだ。俺もあけみんにプレゼントがあるんだ」
マフラーをしたまま翔太はポケットから小さな箱を明美に見せた。
幼馴染のプレゼントに、明美は言葉を失う。
彼からプレゼントを貰うのは初めてだからだ。
「何?」
「良いから見てくれ」
明美はプレゼントを翔太から貰い、ラッピングを解き、梱包を丁寧に開く。
「わぁ……」
箱の中には可愛らしい時計が入っていた。
デザインも明美好みで、嬉しい気持ちで一杯になった。
「それなんだけどさ、高村さんに聞いて買ったんだよ」
翔太は頭をいじりながら、説明した。
明美は早速腕に時計をつけた。見れば見るほど自分に合う。
まりなは明美の好みなどを知っており、翔太が彼女に相談したのは正解である。
「気に入ったわこの時計、本当に有難う!」
明美は翔太に微笑んだ。

こうしてクリスマス・イブは穏やかな雰囲気で時が過ぎたのである。
後日、明美の手には翔太から貰った時計を欠かさず身につけるようになった。

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