「僕はあなたと一緒に行く。もっと強くなりたいから」
 アークの手を握った瞬間から、僕は暗い闇の中に葬られた。あっという間の出来事だった。
 弱々しい僕は邪魔に感じたらしい。無理もない。
 成長し、闇の集団の一員として活躍を始めた僕は、目を覆いたくなるほどに残酷なことばかりを平気でやってのけた。
 市民を集め、「闇の集団に逆らった奴を処刑する」と言って、相手の体を少しずつ切り刻み、叫び声を聞いては僕は笑い、遺体を泣き叫ぶ市民の群れに投げ込む。
 こんなのは序の口、殺人鬼と化した僕の行いを思い出すだけでも吐き気がする。
 僕は嫌気がさし、途中でこちら側から情報を遮断した。これ以上残酷な行いを見ると僕自身が崩れそうになるからだ。
 僕は悲しかった。憎悪と殺意で一杯になった僕に支配権があることに、本当はこんな事したくないのに。
 両親や姉ちゃんに認められない劣等感が穴となって、それを埋める意味で殺人鬼を生み出し、行いを許してしまっている。
 「やあ、まだいたのかい、もう一人の屑な私」
 暗闇の中に現れたのは、殺人鬼と化した僕だった。
 もう一人の僕は時々現れて、僕に話しかけてくる。
 こんなのが僕だなんて、信じられない。
 「僕は諦めた訳じゃない、いつかお前の存在を消してやる」
 僕は両手を握り締めて、もう一人の僕に言った。
 もう一人の僕は、瞳が濁り、表情も固い、邪悪な道をずっと突き進んでいるのが目に見える。
 すると、もう一人の僕は腹を抱えて大笑いをした。
 「できるものならやってみなよ、本当にできるならね」
 もう一人の僕は、馬鹿にするかのように言った。
 こういう所はとてつもなく気に入らない。
 悔しいが、今の僕にはこいつを消す事はできない、何故ならこいつの方が僕より強い精神力を持っているからだ。
 「じゃあまた来るよ、屑な私、次に来た時は消えているといいね」
 そう言うともう一人の僕は姿を消し去った。
 僕は再び暗い空間に独りになった。
 「僕は消えないよ、お前から体を取り戻すまでは」
 僕は独り言を囁いた。
 僕は負けない、僕自身を取り戻して、姉ちゃんに会うまで。
 それまで僕は消えない。

 僕の戦いはずっと続く。
 もう一人の僕が暴走している限り……
 
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