『明美がずっとうらやましかった。テストでも常に上位で私があがいても明美みたいになれないって分かってはいても歯痒かった
はっきり言って明美が怪我をした時はざまあみろって思った。
どう思おうが明美の自由だけど
最後にこれだけは言っておくね、友達は選んだ方がいいよ』

まりなから送られてきたメールにはそう書かれていた。
文面を見る限り、明美に対する嫉妬心が伝わってくる。悪口も嫉妬が駆り立てたものなのだということを痛感する。
胸の痛みに耐え、明美はメールを打ち返した。
『言いたいことをはっきり言ってくれて有難う、あなたがそんな事を思っているのは意外だったわ。
 元・友達として、これだけははっきり言っておくわ
 悔しいなら勉強しなさい、怠け癖を改めないと高校に入学してからでも苦労するわよ』
明美はメールを送信したが、まりなからメールの返信はこなかった。

明美は復学してからも、まりなとは一切口を聞かなくなった。
明美が中学を卒業し、高校に進学してから、彼女とは疎遠になった。

高校に進学してから約三ヶ月。
明美は帰り道に幼馴染の翔太と会い、一緒に帰ることにした。
「あけみんの方はどう」
新しい高校の制服に身を包んだ翔太が訊ねる。
二人は一緒の高校に通っているが、別々のクラスである。
「勉強が難しくて、追いつくのが大変だわ、でも頑張ってるわ」
明美は答えた。
高校に入学してからも、授業の速度に驚くばかりだ。なので予習・復習は欠かせない。
「翔太くんは慣れた?」
「大分な、友達もできたし、部活も毎日忙しいけど楽しいぜ」
翔太は元気良く語る。
彼の生き生きとした表情を見る限り、高校生活は充実しているようだ。
明美は足を止めて口を開いた。
「そういえば……」
「ん?」
翔太は首を傾げる。
「まりなはどうしてるかな」
明美は疑問を抱いた。
連絡を取っていないとは言えとはいえ、元は付き合っていたので、気になった。
すると翔太は足を止める。
「……翔太くん?」
様子が変わった幼馴染に、明美は戸惑った。
「まりなは……学校を辞めたらしいんだ」
翔太は表情を歪める。
唐突な話に明美は困惑せざる得なかった。卒業式には高校入学に胸を膨らませており、退学の気配など微塵も無かった。
まりなに一体何が起きたというのか?
「どうして?」
「ダチから聞いたんだけどよあいつさ、高校に入学した途端に急にグレ始めてよ、髪とか金髪にして、化粧までしてさ、悪い友達と付き合い始めたんだ。
 先生も注意したけどさ、全然改める気なくて……」
翔太は瞳を細めた。
「しまいには店で万引きしてよ、退学になった」
「……」
まりなの転落ぶりに、明美は言葉を失う。
希望を胸に入った高校生活を、自身の手で駄目にしてしまったからだ。
「どうして……」
「分からない」
翔太は短く答える。
「詳しいことは知らないんだ、ごめんな」
「ううん、教えてくれて有難う」
明美は礼を言った。

帰宅してから明美はまりなにメールを打つ。
『翔太くんから話を聞いたわ、退学なったそうね
率直に言うけど、高校ぐらいは出ておかないと、世の中通っていくのは厳しいわよこれは一つのアドバイスだけど、どうしようかはあなたの勝手
あなたの幸せを願うわ』
明美はメールを送信した。
しばらくしても、やはり返信がこなかった。
それでも構わない、メールも明美の自己満足なのだから、来る来ないはどうでも良い。

『初めまして、私の名前は星野明美……あなたは?』
『高村まりなだよ、宜しく!』
明美は夜、まりなと出会ってから過ごした日々の夢を見た。
時間が過ぎるのが惜しい程楽しかった。
明美の寝顔は幸せそうである。

もう絆は途切れてしまったと分かってはいても
忘れることはできなかった。
思い出は消えないのだから……

終わり

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