学校が休日の昼頃、扉を叩く音がした。
「明美、入るよ〜」
いつもの明るい声で、まりなが病室に現れた。
いつもなら明美は笑顔で返すが、翔太から彼女の暴言を聞かされているため、できなかった。
明美の心は、まりなへの怒りで一杯である。
「良かった。元気そうだね」
まりなは明美の顔を覗き込む。
しかし、明美は口を閉ざしたままである。
様子が違う明美に、まりなもようやく勘付いた。
「どうしたの? 今日はノリが悪いね」
まりなはさり気なく聞いてきた。
明美はまってましたと言わんばかりに、まりなを見る。
明美の右手には力が入る。
「ねえ、まりな、一つ聞いて良いかな」
明美の声色はいつもより低かった。
「私さ、学校に来ちゃいけない?」
「何を……言って……」
「春日さんを庇うのもそんなにいけないことかな?」
明美はまりなを睨みつける。
口に出した以上は、もう止められない。
「これ全部、あなたが言ってたって、ある人から聞いたの」
明美が思い切りベットを叩き、まりなが驚いていた。
「私に不満があるなら、はっきり言って! 遠まわしに悪口言うなんて酷いわ!」
久々に大声を出し、室内中に響き渡る。
明美の声に、喋っていたまりなは口を閉ざす。
しばらくの間、まりなは無表情になり、全く喋らなかった。
大抵そうだ。都合が悪くなると話をしない。まりなに限らず人間の本質なのだ。
まりなの口から、真実が語られないまま、時間だけが過ぎた。
キリが無いと判断し、沈黙を破ったのは、明美だった。
「もう私に構わないで、あなたとは絶交だわ」
明美ははっきりと宣言する。
今までのようにまりなと付き合うことはもう出来ない。表で友達面をして、裏では悪口を言いふらしている人間など、一緒にいたくもない。
痛む腕を押して、明美は足早に病室を去った。まりながいなくなるまでは戻らないつもりだ。

明美は屋上で一人で泣いていた。
信じていた者の裏切りと悲しみを晴らすために……

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