「じゃーな、翔太、放課後にな」
 「ああ! またな!」
 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響く頃、翔太は別のクラスにいる友達と離れ、一人で自分のクラスに戻った。
 そこには翔太の幼馴染である明美の友・まりなが複数の女子と会話に花を咲かせていた。
 チャイムが鳴っているのにも、気付かない様子。
 楽しい話なら翔太も聞き流していたが、耳を疑う内容に翔太はその場に固まる。
 「明美のヤツ、ざまあみろだね、怪我してやんの」
 普段のまりなからは想像できないほど、冷酷な言葉だった。
 「自業自得よね、春日なんか庇うからだよ、もう学校に来んなっての」
 明美の友達とは言えない暴言に、翔太の腸は煮えくり返りそうだった。
 まりなは勉強嫌いでも、人の気持ちが分かる子だと明美から聞かされていただけに、まりなの発言が許せなかった。
 まりなが男だったら失礼な話、殴り飛ばしていた。しかし翔太はぐっと堪える。
 ここで怒っても立場が悪くなる。
 ……あけみん、あんたの友達は、友達の皮を被った奴だよ。
 本当の友達じゃない。
 先生が教室に入ってくると、まりなを含む女子達はようやく席に戻った。
 翔太は荷物をまとめ、来た先生に「早退します」と告げ、明美のいる病院へと急いだ。
 
 翔太から事の一部始終を聞かされ、明美は絶句する。
 「……うそよ……まりなが……そんな事を……」
 明美の体はガタガタと震えた。
 「オレははっきり聞いた。確かにまりなは言ってたんだ」
 翔太は拳を強く握る。彼の表情は辛そうである。
 彼が真実を語っているのが伺える。
 「どうして……」
 瞳から涙が溢れ、拭っても止まらなかった。
 信じていたまりなかが、明美を罵る言葉を吐いていたのがショックだった。
 中学に入学した時に気が合い、いつも仲良くしていたのに、何故彼女にそこまで言われなければならないのか、考えても原因が思いつかない。
 「オレ、先生に言うよ、あけみんを傷付けることを口走ったんだから」
 「やめて!」
 明美は目を赤くしたまま叫ぶ。
 翔太ならやりかねないからだ。
 「まりなに直接聞くわ、翔太くんは余計なことをしないで」
 頬の涙を手で乱暴に拭い、明美は言った。
 「けどさ……」
 「これは私の問題なの、私が解決するわ」
 明美は翔太の目を真っ直ぐ見る。
 「……分かったよ」
 しばらくして翔太が口を開いた。
 
 翔太がいなくなってから、明美はベッドの上で、一人で考えていた。
 まりなに伝えることを整理するために……

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