私は生まれてから
この日のことを、一生忘れないと思ったことはない。
多分、人生を歩んでいた中で最高の瞬間が私に訪れたのね。

……イルミネーションの輝きは、私にとって素晴らしい輝き。


私はいつもの駅で、彼が来るのを待っていた。
時計をちらりと見て時刻を確認した。
あと五分で待ち合わせ時間になる。
そんな時だった。
慌しい足音が私に近づいてきた。私はその方向を向くとお馴染みの姿があった。
「お……おまたせ」
彼は何度も呼吸をし、白い息を吐き出した。
彼は黒いスーツを着こなしている。毎度のことだ。
「そんなに慌てなくても平気よ、仕事忙しかったんでしょ? 分かってるわよ」
私は彼の気持ちを察した。この所彼の仕事は多忙を極めている。
そのためデートの時間に遅れる事も少なくないが、その辺りは理解している。
彼は呼吸を整え、真面目な顔を見せた。
「……今日は大切な日だから遅刻なんかできないよ」
彼は落ち着いた声で話す。
私は首を傾げ、彼に問いかけた。
「何のこと?」
「公園に行ってから話すよ、イルミネーションがとっても綺麗なんだ」
私は彼に案内され、公園へと歩いていった。
彼と付き合って二年になる。今では彼なしの人生は考えられないほどに大切な存在だ。
そんな彼が言いたい重要な事とは一体なんだろう?
胸のドキドキが高まる中、私と彼は公園に到着した。
「わぁ……」
そこはイルミネーションが輝いていた。
とても綺麗で、心をときめかすには十分だった。
同時に思い出した。この公園は彼と初めてデートに来た場所だった。
「どう?」
「凄く綺麗よ、最高だわ」
私は微笑みかけた。すると彼は照れくさそうに笑う。
彼と手を繋いで、私と彼は歩きながら美しいイルミネーションを眺めた。
個性豊かなイルミネーションの数々に、私はうっとりした。
道を歩く途中で、私は思い出していた。ぎこちなくても彼が私をエスコートしてくれたことを。
そして今も、彼は私を楽しませてくれる。
これから先も、彼は私にとって必要不可欠な存在だろう。

ずい分と奥のほうに来ると、そこにはハート型のイルミネーションが輝いていた。
今の私達にはぴったりだ。
私と彼はゆっくりと進み、ハートの真ん中で立ち止まる。
すると、彼はポケットから小さな箱を取り出し、私の前に見せた。
……え?
私は言葉を失った。
いつものプレゼントとは明らかに違う。
突然のことに、考えが追いつかない。
「これは……?」
私が訊ねると、彼は箱をそっと開く。
そこには、ダイヤの指輪が輝いていた。
私の心臓が高鳴った。
「そのまんまの意味だよ、僕と結婚して欲しい」
いきなりのプロポーズに、私は驚いた。
そして、この場所を選んだ理由をやっと理解する。ここは彼が私に思いを伝えた場所なのだ。
彼の目は真剣だ。
嬉しい反面、不安もある。
「……私で良いの?」
私は恐る恐る訊ねる。
彼の意思が本物かどうかを知るために。
結婚は中途半端な気持ちしたくない、好きな人なら尚更だ。
「勿論だよ」
「本当に?」
「本当だよ」
「嘘じゃないよね? 私なんかと結婚して良いの?」
何度も質問を繰り返すと、彼は暖かく微笑んだ。
「勿論だよ、僕は君とずっと一緒にいたい」
彼の言葉に迷いはなかった。
「私には色々嫌な部分もあるよ、幻滅させることもあるかもしれないよ? ……良く考えたの?」
「君の良い所も悪い所も全てが好きなんだ。僕には君しかいないよ」
瞳から涙が溢れた。全身が浮かび上がるような感覚だった。
私の全てを受け入れてくれる人がいる。生きていて良かったと思った。
この人とならきっと上手くやっていける。生涯の苦楽も共にできる。
彼を信じよう。
私はダイヤの指輪を、薬指にはめて、彼の体に腕を回す。
「有難う、とても嬉しいわ」
私達はお互いをしっかりと抱きしめあった。

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