スピカは白い布に体を包み、椅子に腰をかけていた。
彼女の隣には、エレンがハサミを持って立っている。
「……本当に良いの?」
エレンの問いかけに、スピカは静かに頷く。
スピカの表情は真剣そのものだ。
「決めたの、わたしは目的を果たすまで逃げないって」
スピカは黒い髪を少し上げる。
これからエレンに髪を切ってもらうのだ、一人で切るより、友に頼む方が安心できるからだ。
目標ができたので、過去の自分と決別したいのだ。
二度と人に迷惑を掛けない、そして後ろを向かないためにも……
「髪を切ってまた問題が起きないかしら」
エレンは躊躇っていた。無理もない。
髪を切れば、スピカはハンスと瓜二つの姿になる。そうすればハンスの命を奪った罪悪感が再び蘇り、無力な彼女に逆戻りするのでは……と。
「大丈夫よ、今は前に進む理由があるから」
スピカは力強く言った。
「お願い、わたしを信じて」
エレンは額に人差し指を当ててしばらく考えた後、返答した。
「分かったわ、アンタを信じる。ちゃんとしてくんないと困るからね」
「ありがとう」
スピカは小さく笑った。
と、その時だった。
……姉さん、幸せになって、それが僕の願いだから。
何処からともなく、ハンスの声が聞こえた。スピカは驚いて辺りを見回した。
しかしハンスの姿は無い、いるのはエレンと自分だけだ。
「どうしたの?」
「ううん、何でもない、始めて頂戴」
スピカの胸は温かくなった。例え目に見えなくてもハンスが見守っていると安心したからだ。
ハンス、わたしは頑張るわ
長い間すごく落ち込んだけど、ようやく未来に進む勇気が湧いたわ。
この先も、色んなことがあるけどやるだけやってみるね。
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