「なあ、黒崎」
「そんな怖い顔したら美人が台無しじゃないか」
翔太が険しい顔をすると、優が宥める。
「マジでやるのか? この格好で」
翔太は自分の服を指差した。翔太は優に呼び出されるなり、いきなりナース姿に着替えさせられたのである。
ちなみに優はメイドの服を着ている。
「やるよ、だって年に一度のコスプレパーティーだしね、君が大好きなお肉も沢山出るよ」
優は楽しげに言った。
彼らはハロウィンに伴うコスプレパーティーの会場に来ていた。
彼等だけでなく、おばけ、魔女、狼男など、ハロウィンに相応しい格好をした人が大勢いる。
「黒崎先輩ならともかくどうして僕まで出なければならないんですか?」
婦警の格好をした哲が抗議した。
哲は強制的に優に呼び出され、参加させされたのだ。
「君は単なる巻き添えだよ一人足りないと入場できないし」
「そんなルールがあんのか?」
翔太の疑問に答えるように、優が一枚の紙を取り出し、翔太に手渡した。
翔太は紙に目を通すと、三人以上でないと入場できないと記されている。
「確かにあるな」
翔太は哲にも紙を見せる。ルールを確認し、哲はため息をつく。
「何で僕なんですか?」
哲は訊ねた。
「僕が知っている人間の中でも君は背も小さいから女装すると似合いそうだからだよ、案の定君の婦警姿は可愛いよ、後で写真を姉さんに見せたいくらいだよ」
さらりと爆弾発言を口走り、哲の表情は強張る。
交際相手の明美に女装した姿など見られると想像するだけで恐ろしいからだ。
「や、やめて下さい!」
「どうしようかな、姉さんの反応を確かめたいな~」
哲は抗議するが、優は悪戯な笑みを浮かべた。
「まあ今日の君の成り行き次第かな」
「何ですか? それ」
「君がいかに可愛く見せられるかによって、判断するよ」
優は言った。
哲の行動で、優が哲の婦警姿の写真を明美に見せるかを決めるのだ。
「黒崎、意地悪ぃこと言うなよ」
翔太が優に注意する。
優の悪癖に耐えかねたのだ。
翔太自身は友人に女装姿を見られても全く構わない。
話のネタにしようと思っているが、哲は明美が絡む以上割りきれないのだ。
優は哲の弱点をついているのだ。
しばらくの間を置いて、哲は真剣な目付きで優を見据えた。
「分かりました」
哲の声色には決意が含まれていた。
「黒崎先輩が満足させられるように頑張ります」
聞いていた優はうんうんと首を縦に振る。
「まあ、せいぜい努力すると良いよ」
優は馬鹿にするかのように言った。
三人が話していると、会場の扉が開いた。
「おっ、開いたね」
「よっしゃ、行くぜ!」
「はい」
動き出した人の洪水の中を、三人の少年が動き出した。
休日の昼間の出来事だった。

 

その後、哲の必死の努力によって明美に写真を見せられることは回避されたとか。
ただし、哲の口調から女性言葉が抜けず、元通りになるまで時間がかかった。



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