純白の雪が大地に降り注ぎ、銀の世界へと変えてゆく。
 緑色の木々達も同様。
 雪が降る中、二人の男女は厚着をして歩いていた。
 二人が歩いていたことを証明するように足跡が残っている。
 「へーくし! 寒いな〜」
 ボサボサの茶髪に、緑色の双眸を輝かせた少年・アディスは一度くしゃみをして、鼻をすする。
 「もう少しの辛抱よ、頑張りましょう」
 肩まで伸ばした黒髪に、紫色の瞳の少女・スピカは寒がっているアディスを励ました。
 二人はクリスマス関係の品を入れた袋を乗せたそりを引いてる。
 エレンは家に残ってクリスマスパーティーの準備をしている。手の空いたアディスと一緒に隣の街まで買い物に行き、今は帰りの途中である。
 「これだけよく買ったよな」
 「今年のパーティーは盛大にしたいからね」
 スピカは白い息を吐きながら話した。年に一度のクリスマスぐらいは豪華なお祝いにしたかったのである。
 「エレちゃんにケーキ作りを任せちゃっているけど、お菓子作りも苦手なの?」
 「……そうよ」
 頬に純白の雪が当たる中、スピカは囁いた。
 「わたしは料理が下手なの、ケーキなんてまともに作れないし、買出しに行ったほうが性に合うくらいよ」
スピカは自身が語るように、料理が壊滅的に下手である。
 ケーキを作ろうとしても黒焦げになるし、挽回しようと作ったカレーライスも食べた瞬間に作った本人が泡を吹いて失神するほどだ。
 スピカの料理は「毒とスピカの料理を選ぶなら、迷うことなく毒を選ぶ」と不評である。
 「スッピーのカレー確かに酷かったな……あんな不味いのをどうすれば作れるか知りたいよ」
 アディスはしみじみと語った。スピカお手製のカレーによって三日間寝込んでしまったからだ。
 恥ずかしい記憶が呼び起こされ、スピカは頬を紅く染める。
 「もう、恥ずかしいから思い出させないで……」
 スピカは地面に目線を移した。
 すると、アディスはからかうようにスピカの頬を軽く突付く。
 「なーんて、嘘だよ! スッピーのカレーは癖はあったけど美味しかったよ」
 「何言ってるのよ、あなたは三日も寝込んだじゃない、エレンだって失神したのよ……」
 足を止めてスピカは言った。
 「また作ってよ、今度はできるだけ辛いのがいいな」
 アディスの無茶苦茶なお願いに、スピカは押し黙る。
 自分の料理によって、健康を損なって欲しくないからだ。
 エレンからは「アンタが旦那を選ぶ際は料理が上手い人が良いわね」とまで言われている。
 アディスの中から記憶が抜け落ちているためだろうか? 世界で一番不味いとされている料理を口にするなど普通では考えられない。
 しばらく考えると、スピカは口を開いた。
 「……あなたがそこまで言うのならば作ってあげても良いわ、ただし少しでもおかしいと思ったら無理して食べないでね」
 「ホント? やったぁ!」
 アディスは子供のようにはしゃぐ。
 スピカの本心はどうしても気が乗らないが、アディスの純粋な目に負けたのだ。
 「帰ったらすぐに作ってよ、寒い中はカレーが一番美味しいからさ」
 「え……ええ」
 意気揚々なアディスとは裏腹に、スピカは困惑気味である。

 二人の男女は雪の中、家へと帰還した。
 スピカの手料理を食べてアディスが一週間寝込んだのは別の話。

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