ラフィアはハロウィンでの意識不明から回復して退院し、生活が落ち着き始めてから二週間が経ったある日のことだった。
「ラフィ、手紙が届いてるわよ」
家に帰るなり、ロウェルに一枚の封筒を手渡された。
ラフィアは封筒を受け取った。差出人の名前には「ファイ」と記されている。
「ファイ?」
ラフィアは聞き慣れない名前に首を傾げる。
「自分の部屋で確かめてみなさい」
「う……うん」
少し緊張した声でラフィアは返した。

自室に行き、ラフィアは席について封筒をゆっくりと開き、便せんを取り出した。
便せんにはたどたどしい字で文章が書かれていた。
『天使のお姉ちゃんへ
急にお手紙失礼します。私はブルネット街に住んでいるファイと言います。
ハロウィンの時、お姉ちゃんが助けてくれたと大人の天使さんに聞きました』
読んでいてラフィアは一人の子供が頭に浮かぶ。黒天使が放った氷に襲われそうになった魔女服を着ていた女の子だ。
「あの時の子か」
ラフィアは呟く。手紙はまだ続きがある。
『あの時は助けてくれて有難う、お母さんも感謝してました。そしてお礼を言うのが遅くなってごめんなさい。
地上に来たら私の家に遊びに来てください。待ってます』
ファイからの手紙はそこで終わっていた。
ラフィアはファイの気持ちが嬉しかった。見返りを求める気はない、しかしファイを救ったことで心が温かくなった。
人を守れる天使になりたいと、ラフィアは一層思った。
機嫌良く背中の白い羽根を上下に動かしつつ、ラフィアは手紙を綴る。
『ファイちゃんへ
手紙有難う、ファイちゃんがそんな風に言ってくれてお姉ちゃん嬉しいよ
ファイちゃんやファイちゃんのお母さんにも会いたいけど、すぐには出来そうにもないの、ごめんね、お姉ちゃん訳あって天界からしばらく出られないんだ
だから天界から出られるようになったら連絡するね。
それまで元気でね』
ラフィアは手紙の内容を確認し、便せんに入れようとした矢先にある事を思い付いた。
「そうだ。羽根を入れておこう」
ラフィアは自分の羽根を一枚抜くと、封筒に入れて手紙に書き足した。
『追記・わたしの羽根を一緒に入れるね、ファイちゃんと会う時の目印にするためにね
イヤだったら捨てていいから』
ラフィアは今度こそ封筒に封をした。自分の羽根を入れるのは相手と仲良くなりたいという気持ちの現れでもある。
ファイの文からして、きっと羽根を持っててくれると感じた。ただ一方的にならないように補足はしておいたが。
翌日、ラフィアはファイへの手紙を投函した。

一年後……
ハロウィンは終わったが、ファイは魔女の服に身を包み、玄関で母親と待っていた。
「今日、来るよね、お姉ちゃん」
ファイは母親を見上げて訊ねる。ファイの手には天使のお姉ちゃんから貰った羽根が握られている。
天使のお姉ちゃんとは、あれから手紙で何度かやり取りして、今日ようやく天使のお姉ちゃんと会えるのだ。
ファイは羽根を捨てずにとっておいたのだ。天使のお姉ちゃんが見たらすぐ分かるように。
「お姉さんが来るって書いてたんでしょ、なら来るわよ」
母親はファイに優しく語り掛ける。
今日は天使のお姉ちゃんがファイの家に来るという。
二人が話している時だった。複数の白い羽根が宙から舞い降りてきた。青い髪の少女だった。
あの時黒天使から助けてくれた天使のお姉ちゃんである。
「あなたが……ファイちゃん?」
青い髪の少女がファイに聞いてきた。
「うん、そうだよ、お姉ちゃん」
「取っておいてくれてたんだ」
ファイは羽根を少女に見せられ、青い髪の少女の顔は明るくなった。
「初めまして、わたしはラフィアだよ、宜しくねファイちゃん」
「うん、宜しくねラフィアお姉ちゃん、そしてあの時は助けてくれて有難う」
二人の少女は握手を交した。
一年ぶりに再会した二人は、一年の空白を埋めるように語り合ったのだった。


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