「らんらんら~ようこそハロウィン
らんらんら~素敵なかぼちゃ達
らんらんら~集まるよ美味しいお菓子~」
シンデレラの格好をしたラフィアは宙を浮いて歌を口ずさむ。
「何だよ、その歌」
「ハロウィンの歌!」
リンの弟であるユラの質問に、ラフィアは元気良く答える。
「ラフィらしいよ」
「でしょー」
リンの言葉に、ラフィアは機嫌が良くなった。
今日はラフィアとリンとユラの三人で天界で行われているハロウィンの祭りを回っていた。ラフィアにとってみれば、三年ぶりの参加である。
リンは伯爵、ユラはおおかみ男の格好をしている。
「歩かないのか?」
「だって飛んでた方が、食べたいお店を見つけた時にすぐに飛んでいけるし!」
ラフィアは屋台のお店にある食べ物が楽しみで仕方なかった。ファルナの元に行けない寂しさをまぎらわしたいのだ。
ラフィアは「おっ」とかぼちゃ型のマシュマロを売っているのを発見した。
「かぼちゃマシュマロがわたしを呼んでるから行くね!」
ラフィアは羽根をはばたかせ、かぼちゃマシュマロの店に飛んでいった。リンが自分の愛称を呼んだ気がしたが、構っていられない。
ラフィアはかぼちゃマシュマロの店の前に降り立つ。
執事の格好をした店主が現れた。
「いらっしゃい、シンデレラのお嬢さん」
「おじさん、かぼちゃマシュマロを十本下さい!」
ラフィアは威勢良く言った。
「十本? それ全部お嬢さんが食べるのかい」
十本という数に店主は驚いていた。
「いえ、七本はわたしが食べますが、あとの三本は人にあげます」
三本はリン、ユラ、そして母親の分である。
「なら、入れるからちょっと待ってな」
店主は袋を取り出し、準備をし始めた。
「ラフィ!」
リンとユラが慌てた様子で駆けつけてきた。
「勝手に動いたら駄目だよ」
「えへへ~ごめん」
リンの注意に、ラフィアは笑って謝る。
天使で賑わっているので、一度離れると探すのが容易ではないのだ。
「お前食い物に絡むと人が変わるからな」
「良いでしょ、かぼちゃマシュマロは今日しか食べられないんだし」
ラフィアは言った。
「かぼちゃマシュマロがわたしを呼ぶとか、ちょっと痛いぞ」
ユラの鋭い突っ込みに、ラフィアはむっとする。
「そんな調子で一人前の天使になれるか心配だけとな、オレが先に一人前になったりして!」
見習い天使は十五才で、一人前の天使になれるかテストをして、合格すれば力を得て一人前として認められる。
ラフィアとリンはあと一年後にはそのテストを受けるのだ。
テストに(合格するまでは受けられる)と不合格だと、ユラが一人前の天使になっても、ラフィアは見習いのままである事もあり得る。
「わたしはちゃんとなるよ、ユラ君より先に!」
「ホントかな、オレがラフィより先になってたら笑うからな」
「ユラ、やめないか」
リンはユラのからかいを止める。
ユラはつまらなそうに「ちえっ」と言った。
「待たせたね、かぼちゃマシュマロ十本だよ、左はお嬢さんので、右は三人分だよ」
店主は二つの袋を出した。
「わぁ、有難う!」
ラフィアはユラのからかいを忘れ、嬉しそうな顔つきになる。
店主の気配りを感じたからだ。
「お代は二百エルだよ」
ラフィアは肩にかけているガラスの靴型のポシェットから財布を出し、お金を取り出そうとした矢先だった。
「じゃあ、これで」
二百エルは、男の声と共に店主の前に出る。
ラフィアは振り向くと、一年前に世話になった人物が立っていた。
「ハザックさん!」
ラフィアは声を張り上げた。

ラフィア達は魔女の仮装をした天使が揃っているカフェに来た。
四人は席に着き、注文を終え、ハザックが口を開く。
「久し振りだな、ラファ」
「ラ……ラフィアです!」
「おおっと、すまねぇ、ラフィアだったな、気を抜くとすぐこれだな」
ハザックは変わらず名前を間違えるようだ。ハザックと会うのは一年ぶりである。
「あの……ハザックさん、ラフィが出そうとしたお金ですけど……」
リンはポケットを探りお金を出した。しかしハザックはお金の受け取りを拒否する。
「気にすんな、さっきのもお前達が注文したのも俺のおごりだ」
「やった! 有難うなおっさん!」
ハザックの頼りある言葉にユラははしゃぐ。
「ユラ、ハザックさんは治安部隊の人だぞ、失礼なことを言うな」
「ええっ、そうなのか?」
ユラはリンの同級生の親なのかと思っていたらしい。
「男が元気なのはいいことだな」
ハザックは弾んだ声だった。ユラの態度を気にしていないようだ。
「ところで、ハザックさん」
「ん? 何だ」
ハザックはラフィアに目を向ける。
「わたしに用があるんですか?」
ラフィアは訊ねた。こうして近づいてきたのだから何か話があるのだと感じた。
「おっ、そうだ。俺としたことがうっかりしてたな」
ハザックは真顔になった。
「ラフィア、明日でお前さんにかけた禁止令が解除される。よって明日から地上に出掛けてもよい。
ただし、一つだけ条件がある」
「条件……何ですか?」
「大人同伴で行くこと、お前さんのお母さんや学校の先生、そして俺たち治安部隊の天使でも構わない。
お前さんの件を受けて規則が変わったからな、くれぐれも守って欲しい」
話している間に、注文された物が届き始めた。
リンの紅茶、ユラのかぼちゃのパイ、ラフィアのオレンジジュース、ハザックのコーヒーがテーブルに並べられる。
真剣な話の中、ユラは構わずかぼちゃパイを食べ始めた。
「分かりました。心得ておきます」
ラフィアは言った。昨年痛い思いをしたので、嫌でも守ろうと決めた。
「それと……これも渡しておくぞ」
ハザックは小さな袋をラフィアに手渡した。
「これは?」
「お前さんが一番良く知ってる人だ」
ラフィアは袋を縛っているリボンをほどき中身を確認する。
中にはチョコブラウニーと手紙が入っていた。ラフィアは手紙を出して封を切った。
「私の可愛い天使ラフィアへ」から文章が始まっていた。
『お元気ですか?
私は相変わらず元気です。今年あなたが来られない理由や、事の詳細は別の天使から聞きました。
身体の方は大丈夫ですか? 私のことよりまず自分の体を大事にして下さい。
ハロウィンにこだわらず。あなたが来られる時になったらいつでも来て下さい。美味しいお菓子を作って待ってますから
今日は心を込めてチョコブラウニーを作りました。あなたやあなたの家族と一緒に食べて下さい
あなたの未来が幸多くなることを願って、ファルナより』
「ファルナさん!」
ラフィアは思わず叫び、周りの視線が集まる。
「急に大きな声出すなよ」
ユラの注意に、ラフィアは片手を口に当てる。
文章からして、ラフィアが黒天使に襲われたことも知らされているようだ。ラフィアの体は複雑な感情が入り交じって震える。
「大丈夫?」
リンの心配にラフィアは頷いて答えるのがやっとだった。
ラフィアはある思いを胸にハザックを見た。
「ハザックさん、今度の休みにファルナさんに会うために地上へ行きたいんですけど、治安部隊で同行できる天使はいませんか?」
「その辺は二人くらい暇な奴がいるから心配しなくて良いぞ」
ハザックは快く答えた。今からファルナに再会できることが楽しみだった。
「有難うございます!」
ラフィアは上機嫌に言った。
かぼちゃのパイを食べきったユラは、ラフィアの隣に来て袋の中を覗き込む。
「おーチョコブラウニーか、美味そうだな」
「まだ駄目、後でユラ君にもあげるから」
ラフィアは袋を大事に抱えた。ユラに先を食べられたら困る。
「食ってみろよ、ファルナさんはそのために作ったんだからな」
ハザックは言った。
ラフィアは袋から一つチョコブラウニーを取り出し、口に入れる。
「美味しい……」
ラフィアは感動で胸が一杯になった。ファルナのお菓子はやっぱり最高だと思えた。


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