薄暗い部屋の中には、四人の黒天使が話をしていた。
「レンシがやられちまったようだな」
薄緑色髪の少年は言った。レンシとはラフィアを襲った黒天使のことである。
レンシはハザックにより倒されたのだ。
「ラフィアさんをいじめた罰が下ったんですよ」
赤毛に黒帽子の少女は冷ややかな声だった。少女はラフィアと過去に関わりがあるため、レンシがラフィアを傷つけたことが許せないのだ。
「……彼女のために黙祷を捧げましょうか?」
金髪に眼鏡の女性は前にいる黒髪の男性に語りかける。
「そうだな、レンシが安らかに眠れることを祈ろう」
黒髪の男性は静かに語り、両目を閉じる。
……お前が生き延びて嬉しいぞ、ラフィア
黒髪の男性は胸中で、青毛の見習い天使に言った。

黒天使に生還を喜ばれてると知らずに、ラフィアは治安部隊に返された袋の中を出した。
治安部隊の二人は帰り、代わりにリンと母親が病室に戻ってきた。
一部割れてるのもあったが、全体から見てクッキーはほぼ無事である。
「良かった。クッキー大丈夫そうだよ」
ラフィアは活気のある声で言った。クッキーの袋口をリンと母親に見せる。
「はい、どうぞ」
リンと母親は一枚クッキーを出した。
「ファルナさん、今年も凝ってるね」
ラフィアは二年前と去年もリンと母親にファルナのお菓子を持ち帰ったのである。
「でしょーかぼちゃの顔が一つ一つ違うんだよ」
「美味しいわ」
母親はクッキーを一口かじり、頬を緩ませる。リンもクッキーを食べ、幸せそうな表情をした。
二人を見て命がけでクッキーを守って良かったと思った。
「ラフィア、美味しいクッキーを持ってきてくれて有難う」
「そう言ってもらえると、嬉しくなるな」
ラフィアは母親に感謝されて誇らしくなった。
「でも……」
母親は言葉を切って、ラフィアの体を抱き締めた。突然の事にラフィアは困った顔になる。
「お……お母さん?」
「もう無茶はしないで、ラフィに何かあったらお母さん悲しいから」
母親の声は心配に染まっていた。血の繋がりは無くとも、ラフィアが娘なのは代わり無い。
「分かった。約束するよ」
ラフィアは安心させるように言った。母親を悲しませる行動はしないと固く誓うのだった。

「ごちそうさまでした」
クッキーを食べ終え、ラフィアは言った。
ファルナのお菓子は食べ、痛みも辛さも消え去り、幸せな気持ちになった。
「処分、重くないといいけどね」
「リン君その話はやめてよ、せっかく幸せ気分に浸りたかったのにっ」
現実的なリンの話に、ラフィアは頬を膨らませる。
ラフィアは規則違反を犯したので処罰が下されるのだ。通知は近い内に届くという。
「大事なことよ」
「うう……そうだけど」
母親の言葉に、ラフィアは急に怖くなる。
もしかしたら牢屋に入れられる可能性もあるからだ。
「ラフィが牢屋に行っても毎日来てね。寂しいのは嫌だから」
「まだそうなるとは限らないよ、ハザックさんを信じよう」
「リン君が変な事を言うからでしょ……わたしも悪いけど」
「ごめん……」
リンは謝った。

二人の家族が帰った後、ラフィアは眠れない時間を過ごした。どんな罰が下されるか気になって仕方なかったからだ。
退院してから二日後に、治安部隊からの通知が届き、ラフィアは緊張した面持ちで封を切り内容を確認した。
『ラフィアさん、貴女の処分が決まりましたので、ここに連絡します。
貴女に下された処分は一年間地上に出ることを禁止とするものです。
学校で行われる地上での授業も免除です。
本来なら一年間の禁固刑が課せられる所ですが、貴女の行動理由が私利私欲でなかったことを考慮してのことです。
もし禁止期間中に地上に行けば、本当に一年の禁固刑になりますので、ちゃんと守ってください
ご家族のためにクッキーを守った貴女になら、守れるはずです』
書き方からしてティーアっぽいが、ラフィアはあまり重い処分でなくて良かったと感じた。通知を見たリンと母親もラフィアが牢屋に行かずに済み安堵していた。
とは言えハロウィンにファルナに会えないのは寂しいので、手紙を出そうと考えた。
『親愛なるファルナさんへ
お元気ですか? あなたの天使のラフィアです。今年も美味しいお菓子を有難うございます。リン君もお母さんもとても喜んでいました。
一つ残念なお話があります。訳あって来年のハロウィンにはファルナさんの家にお邪魔することができなくなりました。ごめんなさい
その次の年も分かりませんが、またお邪魔できる時になったら連絡します。
尊敬と愛を込めて ラフィアより』
ラフィアは手紙を天界のポストに投下した。


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