「今夜もまた寒いな」
 暗い夜に、白い輝きが舞うのをアークは窓から眺めていた。
 ワインを持った女が、アークの体に腕を回してきた。
 「クリスマスぐらい楽しみましょうよ、たまには休まないと」
 女はぼんやりとした表情で、アークを見つめた。
 部屋にいるのはアークと彼女しかいない。
 「マリア、あまり飲みすぎると、明日が辛いぞ?」
 「構わないわよ、貴方との素敵な時間の代償だと思えば安いわ」
 マリアは含み笑いを浮かべ、アークから離れ、テーブルに乗っているご馳走を口に放り込んだ。
 マリアはアークのパートナーで、普段は任務を着実に遂行し、アークが喜びそうな事を施す女性だ。
 顔立ちも美人で、男性の間ではかなり人気がある。
 ちなみに毎年のクリスマスは部下には休みを与えている。神聖な日に闇の集団は活動を一切しないのだ。
 アークはワインボトルを手に取り、グラスに赤いワインを注ぐ。
 そしてマリアにグラスを向ける。乾杯をするために。
 「マリア」
 アークに呼ばれると、マリアは振り向いた。
 マリアは静かに歩み寄ると、アークのグラスを軽く鳴らした。
 「貴方にとって来年が素晴らしい日々になるのを祈るわ、私も喜んで手伝わせてもらうわ、あの忌々しい討伐隊も黙らせないとね」
 マリアはワインを半分のみ、しゃっくりを上げた。
 「オマエの酒癖が少しは改まると良いな」
 アークは呆れたように言った。
 見ての通りマリアは酒癖が悪いのが玉にキズだ。それさえ除けばマリアは最高の相棒である。
 「もう、意地悪ね」
 鋭い指摘に、マリアは唇を尖らせた。
 マリアの反応を見るのは、アークにとっては面白い。
 「部屋の準備を有難う、今年のクリスマスもマリアのお陰で快適に過ごせる」
 アークは真剣な口調で礼を言った。
 何も無い殺風景なこの部屋を、クリスマスツリーや綺麗な装飾品に溢れるクリスマスに相応しい部屋に変えたのも、マリアだからだ。
 アークはこの手の作業が苦手で、マリアに任せている。
 「そう言って貰えて嬉しいわ」
 マリアはムースを胃に入れた。
 「来年も宜しくな、マリア」
 アークはマリアのグラスを鳴らした。 来年こそ目的を果たせる事を祈って。
 彼女と部下達がいれば、成し遂げられると信じて。

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