「今日の稼ぎはこれだ」
中年の男が小さな袋を黒髪の少女に渡す。
少女は袋の中身を確認し、男に微笑む。
「ありがとう、これだけあれば当分の間生活は楽だわ」
袋をしまい、少女は男に手を振って店を足早に去った。
店内は旅人や柄の悪い連中で賑わっており、あまり関わりたくないのである。

 空に月が出ている夜道、少女は一人で歩いていた。
 人気がほとんど無く静かだった。
 「……もっと欲しかったな、魔物退治って結構危険なのに」
 少女は袋の中身について、浮かない表情で不満を漏らす。
 紫色の双眸は不安に揺れる。
 少女……もといスピカは、賞金稼ぎの仕事をして生計を立てている。今回の仕事と給料の内容が合わなかったのである。
 傷こそは負わなかったが、服はボロボロで替えが必要だ。
 それでも生活に困らないだけマシだとも言えるが。
 「早くお風呂に入って眠ろう、明日も仕事を探さないとな」
 スピカは頭を切り替え明日の事を考えた。
 いつまでも過ぎた事を嘆いている暇は無い、日々の暮らしの方が大切である。
 この時スピカは気付かなかった。自身が謎の集団に付け狙われている事を……
 
 高い建物との間にある。細い道に差し掛かった時だった。前後に黒ずくめの男達がスピカの行く道を塞いだ。
 スピカは左右を見渡して、出現した男の数を数える、ざっと四人だ。
 一人一人から殺気を感じる。一体何者だろうか? 仲間ではない事は確実である。
 スピカは相手を睨みつけて訊ねた。
 「あなた達は誰なの?」
 スピカは低い声を発した。目の前にいる体格の良い男が答える。
 「あるお方から、お前の力を試すように命じられた」
 「ある方……?」
 スピカは記憶を巡らせて、自分と関係のある人物を次々に浮かべた。
 レリィアは悪友だが多人数を利用して姑息な真似はしない、他にも何人か候補はあったが、手っ取り早く彼等から聞いた方が早そうである。
 「一体誰なの? 考えたけど色々いすぎて分からないわ」
 「我々に勝ったら教えてやろう、お前がどれ程強いのか試させてもらう!」
 男はスピカに向って疾駆してきた。相手はやる気に満ちており、話し合いで解決とはいかないようだ。スピカは男の連続攻撃を素早い動きで回避する。
 相手はスピカと同じ剣だ。
 三人の男が同時にスピカに襲い掛かってきた。スピカは二刀の短剣を取り出し、三本の剣を受け止める。彼等の動作には無駄がなく連携が取れている。チームワークに乱れがない。
 「あなた達はかなり訓練されているのね、見て分かるわ」
 スピカは低い声を発して剣を弾く、そして一人の男の懐に潜り込み、短剣を心臓に深く突き刺す。男は胸から鮮血を流し、地面に伏する。
 相手の死を確かめる暇は無かった。男が背後から斬りつけてきたからだ。スピカはとっさに真下に屈む。その際、髪の毛が空中を舞う。
 宙に浮く黒い髪は、死を誘う死神の羽根に見えた。
 スピカは鋭い眼光で、二人の男に宣告する。
 「残るのはあなた達ね、恨みは無いけど、悪く思わないでね」
 スピカは二人に急接近して高速で回転した。
 両者の体には複数の切り傷と共に、血飛沫が噴出する。
 二人の男は、黒い髪が地面に落ちる頃には息絶えていた。一人の少女の手にかかって……
 三人をあっという間に仕留め、体格のいい男は口を開く。
 「見事だ。流石にあの方が認めただけはある」
 スピカは男の方を見て、刃先を顔面に向ける。
 「言いなさい、わたしに戦いを仕掛けたのは一体誰なの?」
 男は冷酷な笑みを浮かべて答える。
 「それは大会に参加して、自分の目で確かめるんだな」
 意味深な言葉を残し、男は夜の闇にまぎれて姿を消した。
 スピカは短剣をしまい溜息をつく。
 「なんなのよ……もう……」
 スピカは顔に手を当て、湧き上がる罪悪感と向き合った。
 三人もの命を奪ってしまった。戦っている最中は相手のことを考える余裕が無かったが、全てが終わると己の行いに対し、激しい後悔の念が襲うのである。
 すっきりとしないが戦いは終わった。鉄の臭いが漂ったまま……

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