「まさか貴方があれだけの事件を引き起こすなんて驚いたわ」
 狭く、何一つ置いていない殺風景な部屋にスピカは座っていた。
 ガラス越しにいるディアの話に黙ったまま耳を傾けている。
 スピカは灰色の囚人服に身を包み、己の犯した罪の裁き出るのを不安と沈痛な思いを交えて待っていた。面会に来たディアと会話をしているこの時も、気持ちは揺るがない。
 「何の用かしら」
 スピカは冷たい目線をディアに向ける。
 ディアはスピカが利用していたギルドの店員である。
 スピカが刑務所に入る原因になったのも、友達をギルドで請け負った任務で失った事が全ての発端だった。 
 三人の仲間を雇ったはずが、何処をどう間違えたのか三人揃って敵だったのだ。その上友達が連れさらわれてしまったのだ。
 スピカの努力も空しく友達は死に、納得がいかずギルドに抗議しに行ったが、原因は自分達には関係無いと言わんばかりの無責任な対応振りを見せ付けられ、スピカの怒りが頂点に達し、ギルド内で暴走したのである。
 その結果、数人が死亡するという悲惨な事件となってしまった。
 「そんなに怖い顔をしないで、私は貴方に謝罪しに来たのよ、今回の件はこちら側の不手際だった。安全面を配慮せずに人材を紹介したのはいけなかったわ、今後は二度と起きないように改善していくわ」
 「それなら良いわ、天国のサヤもきっと満足するわ」
 スピカは力のない声で言った。彼女の瞳は虚ろで明るさを感じさせない。
 友達のサヤを失った苦しみは、どんな言葉であっても癒せない。
 もしも願いが叶うならば、時間が戻って欲しい。そう任務を行う前まで。
 サヤに恨まれてもいい、死の運命から友を救うなら何でもする。
 最初に会ったのは、スピカが怪我をした時にサヤが治療してくれたのが出会いだった。思い出をきっかけに、共に過ごした記憶が走馬灯のように蘇る。
 悲劇の爆弾が破裂し、友達は死に、自らも刑務所の中に入ることになってしまった。昔の輝いていた時間に戻れないことが悲しかった。
 ……わたしは大馬鹿よ、何も人の命を奪うことは無かったのに、サヤが死んで気が狂っていたのは単なる言い訳だわ。
 スピカは両腕で自分をきつく抱き締め、下を向く。
 自分自身が憎くてたまらなかった。今すぐにでも滅茶苦茶にして、殺してしまいたいくらいに。
 犯した罪は人間沙汰とは思えない。
 「私たちギルドがまだ憎い?」
 ディアの問いかけに、スピカは少しの間黙り、しばらくすると顔を上げて口を開く。
 「どうでも良いわ、わたしは外に出られずに死ぬんだし関係ないことよ」
 スピカは悲観交じりに呟いた。事があまりに重大で酌量の余地があっても刑務所から一生出られない可能性が高い。
 生き別れになった弟に会いたいが、今のままでは夢で終わりそうだ。
 「貴方のした事は許されないけど、罪が軽くなるように出来る限り力を尽くすわ……貴方が追い詰められたのも元はと言えば私達ギルドにも責任があるものね、皮肉な話だけど貴方の行いによって痛感させられたわ」
 「……気持ちだけ受け取っておくわ」
 スピカは胸に手を当てる。
 ディアの言葉は嬉しかったが、心が沈んでしまっているため、素直に受け止められないのである。
 後ろの扉が閉まる音がして、看守が「時間だ」と厳しい口調で言った。
 ディアは席を立ち、ガラスに手を当てる。
 「次にまた会いましょう、希望は捨てないで」
 ディアはそう言い残し、その場を後にする。
 スピカは黙ったままディアを見送った。

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