人気の無い廊下を星野明美(ほしのあけみ)は歩いていた。
「また落ちてるわ……」
廊下に落ちているガムに明美はため息をつく。
明美はメモ帳を取り出し、問題点を記した。
明美のメモ帳には、校内を巡回して気になったことを書き留めている。
後に風紀委員の顧問である輝宮まりあ(ががみやまりあ)に報告するためだ。
「今度の生徒会で言わないとね」
メモ帳を閉じて、明美は呟く。

明美は風紀委員を努めており、放課後は校内を巡回している。
生徒が問題を起こしていれば止め、今のように校内で風紀を乱すことがあれば、生徒会で報告するのだ。

明美が二階に上がった時だった。
「お前、ふざけんなよ! 何勝手なことしてんだよ!」
「そっちだって悪いんだろ! 俺ばっかり責めんなよ!」
何やら騒がしい声がして、明美は急いでその場に駆けつけると、二人の男子生徒が取っ組み合いになっていた。
明美は持参しているホイッスルを吹き、二人の元に駆けつける。
「何してるの!」
ホイッスル音に気付き、二人は明美の方を向く。
二人の表情は怒りに満ちていた。
「何があったのか説明しなさい」
明美は二人を睨みつけた。
男子生徒は興奮した様子で、話し始めた。
二人はお互い友達同士だが、スマホのゲームで些細なトラブルになったという。
彼が勝手にレアアイテムを取り、その仕返しに相手もアイテムを取ったことで喧嘩になったのだ。
お互いに原因があり、明美は呆れた。
「相手の気持ちを考えないとダメでしょ? 勝手にとるなんて良くないわ」
明美は言った。
現実世界でやれば犯罪だからだ。
明美の言葉に、彼らの表情から怒りが消えた。
「……悪かったよ、勝手にとって」
彼は相手に謝った。
「俺こそ、ごめん」
明美の介入により、二人は仲直りしたのだった。
明美は二人を見てほっとした。

 

「最近多いわね、携帯のトラブル」
「……はい」
生徒指導室に戻り、明美は輝宮に巡回の報告をした。
輝宮は明美の話を聞き、顎に手を当てて考える。

今回のように、携帯やスマホに関するトラブルはよく耳にする。
連絡用に携帯を持つ明美には理解できない。

「携帯の使い方に関する注意を再度した方がいいと思います」
明美は意見を述べる。
問題を起こす一部の生徒のために、マナーを守って使用している生徒を規則で縛るのは心苦しい。
「そうね……」
輝宮は指を顎から離した。
「今度の生徒会で言った方がいいわね」
「ええ」
「報告有り難う、今日はもう帰っていいわ」
「失礼します」
明美は輝宮に頭を下げ、生徒指導室を出た。
廊下は茜色から青色に変わり、夜に差し掛かっていることが分かる。
「変わるといいな、みんなの意識が」
明美は小さく言った。
簡単には変わらないだろうが、言わなければ何も始まらない。
例え嫌われたとしても、学校に通う以上はルールは守らないとならない。
青に包まれた廊下を明美は一人で歩き始めた。

風紀委員の奮闘は続くのであった……。

 

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