新は三人とネバーランドを回っていた。
食べ物が生えてる森や畑、種類が豊富なアスレチック、海や山などネバーランドはとてつもなく広く、子供が生活するに至り、不自由はなさそうである。
「凄いんですね。ネバーランド」
「だろ、子供が暮らすには最高の場所なんだからな」
理は自慢げに言った。
「どうだ。気に入ったか?」
「素敵な所だと思います」
駆に聞かれ、新はそう答える。
駆の両手は相変わらず食べ物を抱えており、大変そうだと感じた。
「駆さん、半分持ちましょうか」
「えっ、いいのか」
「おいおい、宮野は客なんだぞ」
「その辺は気にしないでください」
理が突っ込む中、新は駆が抱える果物やお菓子を半分持ってあげた。
「……悪いな、宮野」
「良いんですよ」
駆の謝罪に、新は少し笑って返す。
「もし宮野がネバーランドの住人になったら仲良くなれそうだな」
「ぼくも理さんや駆さんと仲良くしたいですね」
理の言葉に、新は望みを述べる。
自分がネバーランドの住人になったら、夢と同じく三人で遊ぶことになりそうだ。

四人は木でできた赤い屋根の大きな建物の前に来た。
「ここが私達が住んでいる家よ」
司は言った。
三段ある階段を昇り、家の扉を潜った。中には大勢の子供たちがいた。
「お帰りなさい!」
「その子が新しい子?」
「ようこそ! ネバーランドに!」
子供たちが四人を囲み、一斉に話始める。
新しい顔である新に興味があるのだ。
「す……凄いですね」
新は戸惑っていた。
「これも慣れだ」
駆は言った。
「みんな話は後にして、これから彼を四階に連れていくから」
司の言葉が、新には引っ掛かる。
「四階に何があるんですか?」
「ネバーランドを創った偉い人がいるの、私たちは長って呼んでるわ」
「失礼のないようにしろよ……それと」
理は新に近づく。彼の顔は真剣である。
「駆の手助け有難うな、後は俺がやるから」
「あ、はい」
新は理に食べ物を渡した。
「行きましょう、宮野くん」
司に言われ、新は司の後をついていった。

四階に上がるまでの間、二人は無言だった。新はこれから会う人物のことを考えると不安で胸が広がる。
四階の廊下に差し掛かった時に、司は口を開く。
「……緊張してる?」
「え……それは……もう」
新はぎこちなく言った。
「宮野くんを見てきたけど大丈夫よ、長はきっと宮野くんを受け入れてくれると思うわ」
司は新の不安を溶かすように、穏やかに語りかけた。
「長が聞いてくることには自分の正直な気持ちで答えてね」
「分かりました」
装飾が施された扉の前に二人が立ち、司が扉を優しくノックする。
扉から「はい」と女性の声がした。
「司です。新しい子を連れて来ました」
「……分かったわ、その子だけ中に入れなさい」
司は新に顔を向ける。
「ここからは宮野くんだけで行って、私は待ってるから」
司は扉から二歩ほど後ろに下がった。
「私は宮野くんがいい返事をするって信じてるから」
「色々有難うごさいました。ぼく行ってきます」
新は心を込めて言った。
新は生唾をごくりと飲み込み、ドアノブに手をかけ、ゆっくりと開く。

「失礼します」
新は中の偉い人に一声かけた。
中にいた中年の女性は新に笑いかける。
「いらっしゃい」
「あ、こ……こんにちわ……えっと……」
新は緊張のあまり、言葉が出なかった。
「私の名前はネイト、でも長で良いわ」
「えっと……じゃあ、長さん、初めまして、ぼくの名前は宮野新です」
「宜しくね宮野くん、立ってるのも疲れるでしょうからそこに座って」
「あ……はい」
長に進められた木の椅子に座った。
長はお茶を淹れ、新に出した。良い匂いが漂う。
「口に合うと良いけど」
「有難うごさいます。良い匂いですね」
「ハーブティーよ、ストレスを緩和する効果があるの」
長はお茶を一口飲んだ。新もつられる形でを飲む。
「どうかしら」
「美味しいです」
新は率直に言った。飲みやすいので何杯でも大丈夫そうだ。
長はカップを机に静かに置く。
「このネバーランドはどうかしら」
長は新を見つめて訊ねる。
「素敵な場所だと思います。皆生き生きしていると感じました」
新は子供たちの顔を思い浮かべた。
子供たちは一人一人問題を抱え、元の家で暮らせなくなりこのネバーランドに来たはずだが、楽しそうに笑っている。
「宮野くんは司ちゃんに連れられてネバーランドを体験してみて、このネバーランドで暮らしたいって思う?」
長は問い掛けてきた。
確かに最初は嫌な思いをするのてはないかと怖かった。しかし、司たちの暖かさに触れ、優しい人間もいるのだと心から感じることができた。
現実世界に戻っても、居場所がなく惨めな思い出だけが積み重なるだろう。
現実世界で自分の痕跡がなくなり、肉親である父に会えなくなっても、このネバーランドで暮らす方が幸せだと新は思った。
「暮らしたいです。今の家にはぼくの居場所は無いから」
新は迷いなく言った。
「家族やお友だちから宮野くんの記憶を消すけど大丈夫?」
「……覚悟はできてます」
長の難しい問いかけに、新は少し迷ったが答える。
父から自分の記憶が消えるのは寂しいが、きっと新しい家族と上手くやっていくはずだ。友人はいなかったので問題ない。
長は席を立ち、新に近づき手を伸ばした。
「宮野くん、あなたをネバーランドの一員として歓迎するわ」
新は自分の手をズボンで拭き、立ち上がって長の手を握る。
「宜しくお願いします。長さん」
長は言った。長の手の温もりに安心感が心から沸いた。

ネバーランドの住人となった新の日常は、現実世界にいた頃とは比べ物にならない程だった。
理と駆とは友達になり、毎日ボール遊びをしたり、ネバーランド内を冒険したりした。新は彼等を「さん」ではなく「くん」と呼ぶようになった。理と駆も新のことを呼び捨てで呼ぶようになり、距離は縮まった。
ネバーランドに連れてきてくれた司とも友達になった。司は使者になってから日が浅いらしく、まだまだだと指摘されることがあるという。それを抜きにしても司と男友達と交ざって遊ぶのは楽しかった。女の子と遊んだことのない新にとっては斬新だった。
新は三人の友達と充実した毎日を送り、現実世界での痛みは少しずつではあるが薄れていった。

新はネバーランドで新しい人生を歩み始めたのだった……

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