自宅に帰って来ても、僕が引き起こした騒動は終わらなかった。
「優……何てことしたのよ」
姉さんは泣きそうな顔で僕を睨む。
「だってあいつ等が悪いんだよ、姉さんの陰口叩くからさ」
「だからって言って良いことと悪いことがあるわ!」
姉さんは悲痛な声で叫ぶ。
姉さんがここまで取り乱すなんて初めて見たよ。
我ながら胸が痛むな。
「見損なったわ! 優なんかもう知らない!」
姉さんは僕に背を向けて僕の部屋から出ていった。
それからは僕が経験した中で一番気まずい日々だった。
姉さんは僕を見ても口を聞いてくれないからだ。
一日だけならまだしも一週間も続けば流石に辛くなる。
正しいことをしたと思っても、ここまでガン無視されると精神的にくる。
辛さを緩和するために、テスト勉強、立体起動装置と衣装作成に没頭した。


テストが明けた次の日の放課後、僕は翔太くんと隼人くんを連れ、校舎裏に来ていた。
完成した立体起動装置を披露するためだ。
「じゃーん、見て!」
僕は腰に着けた立体起動装置を見せびらかした。
一応テストしてみたけど、問題なく動いたよ。
仕組みを理解するまで大変だったから、ちゃんと動いてくれて心底嬉しかったよ。
「マジで作ったのか?」
翔太くんは疑いの目で僕を見る。
「そうだよ」
「飛べるのか?」
「勿論だよ~」
僕は笑う。
僕の衣装もこの日のために、主人公が着ている制服なんだ。
「気を付けろよ、優」
隼人くんが僕を気にかけてくれた。
僕は駆け出して、立体起動装置からワイヤーを出して木と校舎の壁に滑り止めの槍が刺さり、僕の体は空中に浮かぶ。
翔太くん達が小さく見え、校舎の二階にまで到達した。
いやー楽しいね。
この浮遊感は、体験した人にしか分からないよ。
スイッチが入った僕は空中で一回転したり、校舎の壁に足場にして走り抜けたり、校舎内にいる生徒に声をかけて驚かせたりした。
普段は味わえない感覚に、僕は胸が躍る。
嫌なことが全部吹き飛ぶ感じがした。
「すげーぞ、優!」
下から翔太くんが絶賛する。
あっはっは~そう言ってもらえると嬉しいな~
「今度は翔太くんにもやらせてあげるよ!」
「マジか? やった!」
僕の言葉に翔太くんははしゃいだ。
「何してるの!」
僕の興奮を冷ます声が耳に飛び込んできた。
真下には姉さんがいた。
校舎内にいた生徒が通報したんだろうな。
あ~あ、何でいい所で邪魔するかな~
「危ないじゃないの、降りてきなさい!」
風紀委員として注意したいんだろうけど、僕としてはやめる気はないね。
僕は姉さんの真横まで急降下し、再び宙を舞った。
「何で降りなきゃいけないのかな? 星野さん」
僕の行為に姉さんは怒りで顔を赤くした。
「降りろなんて言って降りる人なんていないよ~特に星野さんなら尚更だよ~」
僕は嫌みを込めて言った。
四週間ぶりに話しかけたと思えば、僕への注意だったからだ。
「どうしたの? 僕と口をききたくなんか無かったんだよね、だから家でも教室でも僕を無視してたんよね? 僕は姉さんを中傷から守るためにやったのに、割に合わないな~」
僕は本心をさらけだした。
僕なりの方法で姉さんを守りたかったのは確かさ。
お母様の教えで「明美を守ってあげるのよ」と言われたからだ。

 

で、実行したその結果が、ガン無視。

 

だからこうして姉さんをおちょくってるんだ。
「降りてきなさい!」
「嫌だよ~」
「怪我したらどうするの!」
「そんな事を言ったって僕の意志は鋼のごとく固から曲がらないよ~曲げるなら星野さんがバニーメイドの格好をしてモノクマ音頭を踊ったら考えてもいいかな~」
姉さんが絶対やらなさそうなことを僕は言った。
姉さんは本当に悔しそうな顔をしていた。
あっはっはっは~愉快愉快。
スマホで撮ってやりたい気分だよ。
「バニ~バニ~な星野さん、踊り放題でいいすか? 
空気も気にせずバニーメイド~」
変な歌詞を聞こえよがし口ずさむ。
「引っかき回してバニ~バニ~メ~イド」
「優! いい加減にしなさい!」
姉さんが手を力強く握る。
あれは絶対に降りない 方がいいね。
あのポーズは拳骨を食らわせるぞと言ってるからだ。
姉さんをからかうのも飽きたし、姉さんがいない安全な場所に着地してから逃げよう。
「翔太くん、僕はこれで帰るよ、立体起動はまた日を改めてるから~」
見上げる翔太くん達に言った直後だった。
何かが切れる音がして、僕は音がした方を見る。
立体起動装置に使用している二本のうちの一本が切れたのだ。
切れた一本は木に、もう一本は校舎に刺さっている。

 

使い過ぎたかな。一本だけじゃ姉さんから逃げるのは厳しいな。
姉さんは怖いけど、怪我するよりマシか。 

 

僕は軽くガスを噴射し、校舎に足を当て、ロッククライミングの要領で下に降りた。
「あ~危なかったな~」
僕が地面に立つと同時に怖い顔をした姉さんと翔太くん達が駆けつけてきた。

あれだけ言われれば誰でも怒るよね。無理ないか。

 

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