「お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞ」
僕は帰宅した姉さんにコスプレ姿を披露した。
姉さんは想像通り憂鬱そうな顔を浮かべる。
「もう……優ったら……」
「あっはは~似合ってるかな?」
僕は右手を頭に当てて、片目を閉じる。
例のごとくハロウィンのコスプレ大会用だ。
今回は趣向を凝らして、着物にしてみた。
動きにくいけど、柄は気に入っている。
「悪いけど後にしてくれる?」
姉さんは面倒くさそうに言った。
最近は学校行事で忙しいらしくてノリが悪い。
演劇は終わったから、風紀委員の仕事だと思う。
ここで引き下がったら面白くないので、次の作戦に移ろう。
「姉さんのも用意したから、ネコの着ぐるみ」
僕は黒猫の着ぐるみを出して、姉さんに見せつけた。
「この着ぐるみを着て姉さんにも出てもらいたいんだけど……」
「イヤよ」
即答に僕は軽くショックを受ける。
こんなにはっきり言われると流石にへこむな~
「着替えるからもう出てって」
「ちえっ、分かったよ」
モヤモヤした気持ちを抱えて、僕は部屋を後にした。


自室に戻り、僕は普段着に着替えた。
「つまんないな~」
僕は呟く。
掴みは良かったのに、後は全然だ。
前は過剰に乗ってくれたのに、飽きたのかな?
それはそれで寂しいよ。
僕にとって悲しいのは構ってもらえないことだ。
緑や太一、翔太くんに見せるのもありだけど、リアクション的には姉さんが一番面白い。
ちなみに輝宮先生もいいと思われがちだけど、逆刃刀を持って王先生を追いかけ回しているから却下だ。
僕だって命は惜しいからね。まさしく「青鬼」と言ってもいい。
「宿題しようか、確か数学であったな」
僕は鞄から教科書とノートを出して夕食の用意ができるまで、宿題を始めた。
こうして夜はゆっくりと過ぎていったのだった。


それから数日後の昼休み、僕は翔太くん達とお昼を食べていた。
「でさー昨日のクイズ番組難しくて! オレ全然問題答えられなくてよ!」
翔太くんは明るく言った。
「俺は分かったけどな」
隼人くんは自作のおかずを口に運ぶ。
「もうちょっと……いや、二十四時間は勉強しないとキミは賢くならないね」
「そんなの拷問だろ!」
僕の言葉に、翔太くんは返す。
翔太くんは勉強嫌いだからテストではいつもギリギリだ。
隼人くんは成績の心配ないんだよね。
「お前、もっと勉強しろよ、もうすぐ中間だろ?」
「だーもう、その話しはナシだっつーの! 消化が悪くなる!」
隼人くんの最もな意見に、翔太くんは慌てふためく。
あと三週間後には中間テストで対策は必要だ。
翔太くんは表情に出やすいからいじって楽しい。
「でも大事なことだよ、こうして言わなきゃキミは勉強しないじゃないか」
僕が言うと翔太くんは悔しそうな表情をする。
正論を言われて何も言い返せないか。
「分かったよ、ちゃんとやるって」
翔太くんは腕を組んだ。
「それがキミのためだよ」
僕は持参したポリ袋にゴミを入れた。
「ごちそうさま、次の授業は移動しなきゃならないからこの辺で失礼するよ」
「薬雛先生の授業だよな?」
隼人くんが口を挟む。
薬雛(やくひな)先生は化学の先生だ。
「今回はどんな研究をするか楽しみだよ」
僕は笑った。
薬雛先生は薬品に関する授業が中心なので理科室で行うことが多い。
「気をつけろよ、薬雛先生の薬は絶対飲むなよ」
翔太くんは僕に言った。
薬雛先生の薬は飲むとろくでもない副作用がつく。
例えば髪の毛が床まで伸びたり、幼児化したり。
翔太くんは薬雛先生の薬を飲んで、大嫌いなピーマンが身体中にくっ付き一日過ごしたことがあるからだ。
「飲まないよ、もし飲むなら女体化薬がいいな~」
僕は席を立って翔太くん達に手を振って去った。


教室で必要な教科書を手に持ち、僕は単身で廊下を進んだ。
僕がいる教室が二階で、理科室は三階なので行かないとならないのだ。
「あ~面倒臭いね~」
僕はもらした。
この学校は広く、移動するのも容易ではない。
セグウェイが欲しいくらいだよ。
走りたい所だけど、廊下には人が行き来しているから、やらないよ。
時間にも余裕があるしね。
「立体起動装置でも作るかな~あったら移動も楽そうだし」
楽しそうな案が浮かび、僕はウキウキした。
立体起動装置は最近のアニメに出てくる道具で、ワイヤーを飛ばして高速移動できる便利なものだ。
言っておくけど、僕はそのアニメを真面目に見た訳ではなく。翔太くんに「みろ、これかっけーだろ!」って言われて、キャラが立体起動装置を使って屋根から屋根に移動している場面しか見ていない。
本編は僕が気絶するような怖い系だからだ。
三階に上がる階段に差し掛かった時に、悪意のある言葉が、僕の耳に入った。
「星野さんさあ、五月蝿いよね」
「風紀委員だからって調子に乗りすぎじゃない?」
姉さんの悪口だ。
僕は音を立てないように近づくと、四人の女子が群がっているのが見えた。
悪口はそこから聞こえた。
彼女達に気づかれないように、僕は黙って聞き耳を立てる。
それはとても酷いものだった。
いい子ぶってる。地味など、聞いてて腹が立つことばかりだ。
「王先生とも一緒に過ごしたっていうじゃない、尻軽よね~」
頭に来た。
流石に聞き捨てならない。
僕は四人に近寄りながら口を開けた。
「どうしてそんな事を言うのかな」
僕の声に、四人は一斉に振り向く。
「君たちみたいにコソコソ悪口言ってるプランクトンどもに、姉さんの何が分かるの」
僕の冷たい言葉に四人の表情は強張る。
「姉さんは尻軽でもないし、調子に乗ってないし嫌な仕事を真面目にこなす人だよ、僕的には君らがバカに見えるよ」
風紀委員の仕事は何かと嫌な役で、こうした悪口もたまに聞く。
でもこいつ等は本気でむかついた。
王先生と一緒にいたっていうけど、あれは王先生に無理やり連れ回されたんだ。
その後、よっぽど嫌なことがあったらしくて、しばらく元気が無かった。
こいつ等はそういった点を知らないんだ。
「姉さんの悪口言うのはやめるんだね、この負け犬ども」
僕の言葉に、一人の女子生徒が泣き出して、廊下を走り去ってしまった。
二人の女子生徒が後を追い、残された女子生徒が僕を睨み付ける。
泣かしたことへの怒りをヒシヒシと感じるけど、僕は引かないよ。
だって彼女達が悪いんだよ?
姉さんを悪く言うんだし。


駆けつけてきた銀河先生に叱られても、彼女達に謝罪もさせられても
僕は自分のやったことを後悔しなかった。
僕は間違ったことなんかしてないんだし。

 

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