授業が終わり、ラフィアはリンと共に廊下を歩いていると「ラフィー!」という声とセットに一人の少女がラフィアの背中から抱きついてきた。
二人は振り返った。金髪に前髪をリボンで束ねた少女が立っていた。
「マルグリットちゃん」
ラフィアは少女の名を呼ぶ。
マルグリットはラフィアの友人である。
「一緒に帰りましょう」
マルグリットは言った。
「僕は帰るよ、夕飯までには戻って来てね」
「分かったよ、じゃあまた後でね」
リンは空気を察し、ラフィアに手を振って単身で人混みに消えていった。
「じゃあね~弱男くん、ラフィのことは任せてね!」
マルグリットはリンに言った。
弱男とはリンのことである。マルグリットは男性に対しては辛辣なのはラフィアとリンも承知の上である。
学校を出て、ラフィアはマルグリットと都心部を歩いた。文具や本屋に寄る学生の天使や、食材や日常品を買い求める天使がいて賑やかった。
「今日がアタシと帰る日だって忘れてたでしょ」
マルグリットは言った。
マルグリットは週四回の園芸部があるため、ラフィアと帰るのは週に一回だけである。
今日が丁度その日ということになる。
「ごめんね、忘れてた」
ラフィアは謝った。
試験や儀式のことで忙しかったため、マルグリットと帰る日のことが頭から抜け落ちていた。
天使になれたとしても、友情にヒビが入るのはまずい。マルグリットはラフィアが学校に入学した時からの仲なので、大切にしたい。
「まあ、今日のところはロイヤルミルクティーで許してあげるわ」
「次から気を付けるね」
ラフィアは言った。
少女二人が向かったのは喫茶店で、手頃な値段で美味しいお茶やお菓子を楽しめるのでお金に余裕がある時は来ている。
マルグリットはロイヤルミルクティーを、ラフィアは紅茶を頼んだ。
「ラフィ、昇級おめでとう」
少し怒った態度から一転、マルグリットは柔らかな笑みを見せる。
「それ、教室でも聞いたよ」
「良いじゃないの、ここでも言わせてよ
気になってたんだからね、ラフィがちゃんと試験に受かるかって」
「わたしも……合格できるか正直不安だったよ」
ラフィアは自信なさ気に言った。
メルキの助言を借りなかったら受かってなかったかもしれない。
助言の件は恥ずかしいのでマルグリットには伏せている。
店員がロイヤルミルクティーと紅茶を運んできた。
ラフィアはミルクと砂糖を紅茶に入れて飲み、マルグリットもロイヤルミルクティーを口に含む。
「美味しいわね……あ、そうそう」
マルグリットは満足げに言った。すると何かを思い出したようにマルグリットはカバンを探った。
カバンから青い薔薇の花束を出す。
「どう、綺麗でしょう? アタシが育てたの」
マルグリットは園芸部らしい一面を見せた。
「とっても綺麗だよ!」
マルグリットは立ち上がって、ラフィアの側に来る。
「合格のお祝いとして、アンタにあげるわ」
「わあ……有難う」
ラフィアは青い薔薇の花束を受け取った。
「あっ、わたしからも合格祝いのプレゼントがあるんだ」
薔薇をそっと置いて、ラフィアはバックから小さな袋を出した。
「これは?」
「開けてみて~きっと気に入ると思うよ」
マルグリットはラフィアから小さな袋を受け取り、中身を開く。
桜の花をモチーフにした髪飾りが入っていた。
「可愛いわ」
マルグリットは嬉しさで頬が緩む。
「つけてみてもいいかしら」
「良いよ、そのために買ったんだから」
マルグリットは付けていた髪飾りを外し、桜の髪飾りを付ける。
ラフィアは手鏡でマルグリットの顔を写した。
「素敵! 今からこの髪飾りにするわね」
マルグリットは口元がほころんだ。ラフィアもつられて笑った。
二人の少女は時間が許す限り色んな話をした。
帰る際(ロイヤルミルクティー代はラフィアが出したが、紅茶代はマルグリットが出してくれた)はお互いが交換しあった合格プレゼントが手と頭にあった。

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