「ママ……病気なの?」
わたしはパパに聞いた。
いつもはママが朝ごはんを作るけど、今日はパパが作っている。
「風邪をひいて寝てるんだ。すぐに良くなるさ」
パパはテーブルにハムエッグやパンを並べて言った。
そう言えば、昨日からママは咳をしていて調子が悪そうだった。
「パパ、フライパン焦げてるよ!」
詩乃ちゃんがパパに言う、パパは慌てた様子でキッチンに向かった。
わたしはハムエッグを一口食べた。美味しい。
パパの朝ごはんもとても美味しいから好きだけど、朝はママが立っているからちょっと違和感がある。
「しーちゃん早く食べなよ、幼稚園に遅れちゃうよ」
わたしは詩乃ちゃんに言った。
詩乃ちゃんは食べるのが遅い。しーちゃんとはわたしが詩乃ちゃんを呼ぶ時に使う。
詩乃ちゃんはパンをかじった。
わたし、詩乃ちゃん、料理を終えたパパは朝食を食べ始めた。
ママのいる席がぽっかり空いている。
ちょっと寂しい。

幼稚園に行く支度を終える頃に、チャイムが鳴った。
パパが玄関に向かうと、玲香おばさんが待っていた。
「佳歩ちゃん、詩乃ちゃんおはよう」
玲香おばさんはわたし達に挨拶をした。
『おはようございます』
わたし達も頭を下げて挨拶を返した。
玲香おばさんはパパのお姉さんで、わたし達と遊んでくれたり、何か困った事があればすぐに駆けつけてくれるんだ。
今日はわたし達を幼稚園に送り迎えしてくれるんだって。
ちなみにパパはお仕事を休んでママの面倒を見るんだって。
「挨拶できて偉いね」
玲香おばさんは誉めてくれた。
「姉さん、佳歩と詩乃のことを頼むよ」
「任せて」
パパはそう言って、わたし達の方を見た。
「二人とも気を付けて行くんだよ、先生を困らせるようなことをしては駄目だからね」
パパは言った。
わたしは幼稚園を抜け出して王おじさんに会いに行き、詩乃ちゃんは苦手なブロッコリーを残す。
お互いに問題はある。でも簡単には治らない。
だけどママが風邪をひいてるから治るまではやめておこう。
ママの風邪が長引くのは嫌だから。
「分かったよ」
「はい」
わたしと詩乃ちゃんはパパに言った。
「いってきます!」
わたしは詩乃ちゃんと共に玲香おばさんに手を引かれ、家を後にしたのだった。

賑やかな声が消え、静かな時間になった。
佳歩と詩乃が幼稚園に行ったんだなと感じた。
扉を開く音がして昇さんが入ってきた。
「具合はどう?」
昇さんが声をかけてきた。
私は体を昇さんの方に向ける。
「まだ頭が痛むわ……ごめんなさいね迷惑かけて」
私は謝った。
私が体調不良になったせいで昇さんに負担をかけているからだ。
「いいんだよ、こういう時ぐらいはゆっくり休んで、佳歩と詩乃は俺が見るから」
昇さんは温かい言葉を与えてくれた。
結婚して子供ができても、彼の気遣いは変わらないのがほっとする。
「二人は……行ったのね?」
「ああ、姉さんが連れてってくれたよ」
「玲香さんが? 後でお礼言っておかないとね」
私は言った。
玲香さんは生チョコが好きだから渡せば喜ぶだろう。
「そろそろお粥作るから、大人しくね」
「分かってるわ、慌てなくていいから」
私は昇さんの背中に向けて言った。
昇さんも一人暮らしが長かったため料理はできるが、見ていて心配になる部分がある。
それでも料理は美味しいから文句は言えないけど。
私は目を閉じ眠ることした。

次の日……
「ママ、病気はもう治ったの?」
私がオムレツとサラダを並べていると佳歩が声をかけてきた。
「もう大丈夫よ、心配かけてごめんね」
私は優しく言った。
一日休んだらすっかり熱も引き、頭痛も無くなった。
二人は身支度を整えて席につくと、佳歩が話し出した。
「わたしがブロッコリー食べたお陰だね!」
詩乃は嬉しそうに言った。
詩乃はブロッコリーが嫌いで、出しても必ず残す。
食べてもらえるように工夫はしているが中々治らない。
「しーちゃん昨日、ママの病気が治るなら頑張るって言ってサラダのブロッコリー食べたんだよ」
佳歩は言った。
佳歩は嘘をつくような子では無いので、本当だろう。
嫌いな物を食べたことは偉いと思った。
「偉いわ詩乃」
私は詩乃の頭を撫でた。詩乃は「へへっ」と照れ臭そうに頬を赤らめた。
「佳歩も!」
「はいはい」
私は佳歩の頭も撫でると、佳歩は満足そうな顔になった。
後々昇さんが起きてきて、家族四人で朝食を食べた。
やはり家族一緒に食べる食事は楽しい。
昨日は一人で食べたが、どこか味気なかった。
佳歩は私をじっと見て口を開いた。
「ママがそこにいると落ち着くな」
佳歩は言った。
昨日はいなかったので寂しかったのだろう。
私は家族の温かさを身に染みて感じたのだった。


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