雨が窓に叩きつけ、カタカタ……と風が音を鳴らす。
 私は暗い部屋のベットの中で眠れずにいた。
 早く眠らなくてはいけないと分かってはいるが、マーブル状に思考が渦巻き、すぐに眠れそうに無い。 
 「……私……このままで良いのかな」
 私の心の中も外の嵐のように、不安で吹き荒れている。
 入社した会社での仕事では、覚える事が沢山ある。正直な話全部できるかどうか分からない。その上苦手な上司に教わらなければならないので更に不安だ。
 言いたいこともあるが、職場の雰囲気を壊したくないので今は我慢している。
 私と一緒に入った同期の子は仕事の飲み込みが早く、どんどん私を追い越しており、私は置いてけぼりである。
 入社した時は出来ると自信はあったのにな。
 学生の時にはそこそこ勉強してきた。学級委員も務めて、バイトだって上手くできた。
 それら全てが社会に出ても通用するって思っていた。
 ……でも、世の中はそんなに甘くないなと痛感した。学校と会社は別の世界だったからだ。
 「明日は失敗しないように頑張らなきゃな……」
 慣れないあまりに失敗ばかりして、上司には毎日のように叱られて、精神的に辛い。
 本当はこんなはずじゃなかったのにな、効率よく仕事をこなせて、先輩にも褒められて毎日が楽しくて……
 そんな事を考えていたのに現実は思い通りにならない。
 明日こそは失敗を返上したいし、苦手な上司にも私を認めてもらいたい。
 「辞めたら母さんに心配かけるからな……それだけは避けないとな……」
  どんなに辛くても会社を辞められないのは、母の存在が大きかった。
  私は故郷に一人残してきた母のことが気になって仕方なかった。私が八歳の時に父は病気で他界し、母は女手一つで私を育ててくれた。
 家計が厳しい中、高校まで出してくれた母には感謝している。
 私は母を楽にするために故郷を離れて就職した。
 『体に気をつけて、無理はするんじゃないよ』
 この前、電話で母が何気ない言葉だったけど、疲れきっていた私の心を解すには十分だった。
 辛いこと、考えただけで憂鬱になることもあるけど、後には引けない。
 私はもう子供じゃない、一人の社会人だ。今がどれだけ険しい道でも諦めてはいけない。
 瞼が重くなってきた。ようやく眠れそうだ。不安でもちゃんと休まないといけない、どっちにせよ明日はくる。
 「おやすみ」
 私は小さく呟き、瞳を閉じて眠りに落ちた。雨の音を子守唄代わりにして……

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